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患者の視点−医療に生かす(中)学ぶ

模擬患者の女性(手前)と診察の訓練をする研修医=滋賀医科大学


 ■模擬患者で訓練 「わかりやすく」

 「医師のちょっとした言葉に傷ついた」「訴えを分かってもらえなかった」…。医師とのコミュニケーションに不満を漏らす患者が目立っています。医者に悪意はなくても、小さな摩擦が訴訟などに発展するケースも。そのため、研修医や医学生らが模擬患者(SP)を練習相手に経験を積む取り組みが広まってきました。(柳原一哉)

 4月上旬、滋賀医科大学で開かれた研修医向け「コミュニケーション・トレーニング」。参加したのは今春、付属病院に配属されたばかりの研修医46人。講義の後、研修医が医師役になって、模擬患者を診察する「模擬診察」が行われた。

 机とイスを置いて診察室に見立て、医師役が「どうぞ」と声をかけ、患者役が部屋に入る演技をする場面からスタート。「お待たせしました。お寒い中ありがとうござい…。おかけください」。思わず出た言葉が変だと思ったのか、語尾を濁す研修医。あいさつはぎこちないが、患者の名前はしっかり確認した。

 「1カ月以上も熱が下がらない」と訴える模擬患者。研修医は検査結果を示しつつ、「膠原(こうげん)病の疑いがあります」「聞いたことがある名前でしょうか」と説明を始めた。

 なじみのない病名に模擬患者は困惑の表情だ。だが、詳細な検査が必要と判断した医師役の研修医はしきりに「詳しい検査がベストです」と、入院を勧める。

 模擬患者から出てくる言葉は「入院しないとダメですか」「どんな検査ですか」「入院期間は?」と続く。医師に協力する姿勢が弱まるのと裏腹に、研修医は丁寧な説明を心がけようと言葉に力がこもっていった。

 迫真のやりとりの後、患者役になった野田美代子さんが課題点を指摘。「自己紹介はできたが、待ち時間の長さをわびたつもりか、『ありがとう』はそぐわない」

 続けて、「コウゲンビョウを理解する前に説明がどんどん進んだ」「なぜ入院なのか、理由を聞けないまま、一方的に入院を勧められた」「入院を避けたい事情があることも伝えられなかった」と指摘した。

 採血を「血を抜く検査」と表現したことも、見直しを求められた研修医。「治療方針を説明しようとするあまり、(診察を)いい流れに持っていけず残念。改善点がよく分かった」と疲れた表情ながら、手応えはあったようだ。

                  ◆◇◆

 患者と医師のコミュニケーションは円滑であることが前提だ。「信頼関係が成立しないと、情報のやりとりもできない。意思疎通はすべての基礎」と、研修を主催した滋賀医大卒後臨床研修センター長の太田茂准教授がトレーニングの狙いを説明する。

 「患者が医師をどう思い、どう考えているか。それを知るすべを医学生、研修医のころから磨く。それで患者側に立った医療を提供できるようになっていくのではないか」と期待する。

 医学生が臨床実習を始める前の試験に平成17年、模擬患者を相手にした臨床能力の評価(OSCE)が導入された。

 基本的な能力を試す内容だけに、医学教育に詳しい藤崎和彦・岐阜大学医学教育開発研究センター教授は「車の運転にたとえれば仮免許。路上運転は難しい」という。「これまでの医学教育で、『患者の立場で考えましょう』という心構えは説かれてきたが、そう行動できるよう、学生らを訓練してこなかった。もっと訓練が必要です」と主張する。

                  ◆◇◆

 医師と患者の意思疎通のまずさが課題になる中、SPを使った訓練の機会を設ける大学や病院は今後も増えそうだ。それらを支えるのは市民ボランティアのSPたちだ。

 今では50以上の団体があるとされるが、日本医科大学(東京都文京区)のように大学自体が市民向け講座を開講。ボランティアSPを養成し、学生教育に役立てているところもある。同大教育推進室長の志村俊郎教授は「学生は座学でなく、SPが参加する授業で医療の使命を認識できるようだ」と話す。

 SP活動で草分け的存在のNPO法人「ささえあい医療人権センター COML」(コムル・辻本好子理事長)でも、年間約80回、大学の講義や現役医師のセミナーにSPを派遣する。

 コムルのメンバーでSPの女性は「日ごろ、医療電話相談も受けているが、『訴えてやる』というトラブルは、医師のちょっとした言葉が、ボタンの掛け違いにつながることが多い」と話す。

 東京SP研究会の佐伯晴子代表も「意思疎通を十分に図るには時間がかかる。医師に自己犠牲を強いるのではなく、診療報酬で報いるなど、制度的な保障が必要」と指摘している。

(2007/04/17)

 

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