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どうする肺がん検診(上)会社の診断受けていたのに…

闘病生活が始まる直前の平成15年2月、最後となった夫婦での海外旅行を楽しむ良輝さん(左)とケイ子さん(藤沢さん提供)


 ■リスク把握し独自に 

 肺がんは今や年間死亡者数が約6万人。がん死のなかでもトップです。今後、喫煙世代が高齢化すれば、さらに増加が懸念されます。しかし、職場健診を受けて安心している人も多いのでは。職場健診を受けながら、夫を末期の肺がんで亡くしたという読者の経験から、肺がん検診の心構えについて考えます。(北村理)

 「これからは、自分で好きなことが少しでも長く、元気でできるといいですね」

 横浜市在住の藤沢ケイ子さん(60)は夫の良輝さんが平成14年に定年退職したとき、こんな感謝の手紙を送った。しかし、夫は翌年11月に肺がんで亡くなった。まだ、60歳だった。

 ケイ子さんは手紙を送った当時を振り返る。「夫は『照れくさい』と読みませんでした。ですから、私が弔辞として伝えたのです。がんが分かって、亡くなるまで8カ月。あっという間で、弔辞を読む間も信じられない気持ちでいっぱいでした」

 藤沢さんの遺影は、定年退職の年に行ったグアムで写したものだ。亡くなる前年の夏。日焼けした良輝さんが孫を抱え、それをケイ子さんがほほえみながら、眺めている。がんの兆候は全くなかったという良輝さんの顔は、あくまで穏やかだ。

 だが、このときすでに、良輝さんの脳と肝臓には、肺を原発とするがんが転移していたとみられる。

 年が明けて平成15年2月。海外旅行から帰ってきて以降、良輝さんに車をぶつけたり、転んだりする症状が出始めた。

 脳の病気を疑ったケイ子さんは、「おれのどこがおかしいんだ」といぶかる良輝さんを連れていった脳外科で思いもかけない言葉を聞かされた。

 「肺がんが脳に転移しています。どうして放置していたのですか? 会社の健康診断は受けていなかったのですか?」

 良輝さんは20歳のころから喫煙歴がある。1日1箱が習慣だった。

 しかし、数十年来受け続けた会社の健診で行われている胸部X線の検査はずっと「異常なし」。精密検査を受けたことはなかった。

 いくつもの疑問符が頭をよぎるなか、1週間後には、神奈川県立がんセンターに入院。主治医の要請で会社を通じ、健康診断のX線写真を取り寄せた。

 平成12〜14年まで3年間のX線写真には、心臓の左心室の裏側に、卵形の病巣(7センチ)がくっきりと認められた。

                  ◆◇◆

 「見落としました。あってはならないことをしました」

 3回忌を終えた平成17年、ケイ子さんら家族は、会社の健康診断を受託していた医療機関の医師からこう説明を受けたという。

 「夫はずっと会社の健診を受けていたんです。それなのに、手に負えなくなってから、がんだと言われるなんて…。病床で抗がん剤に苦しみながら、夫は繰り返し『おれのは見落としだ』と言っていました。その時の苦悶(くもん)の表情は忘れられません」

 良輝さんが受けていたのは、X線による間接撮影。実物大の写真を分析する「直接撮影」に対し、間接撮影は100ミリ大に縮小されたロール状のフィルムを拡大鏡で読み取る。職場健診など、数多くの受診者を短期間で診断するのに適している。

 受託機関の医師らは、こうした健診の特性を示したうえで、がんの発生場所が左心室に隠れていて見つけにくかったと説明したという。ケイ子さんには、にわかには理解しがたかった。

                  ◆◇◆

 藤沢さんのケースを、呼吸器系のがん専門医や別の検診機関の医師らは「病巣がこれほど大きければ、『異常なし』と本人に伝えることは、おかしい」と指摘する。

 しかし、検診機関のレベルによっては「異常なし」と誤判断する可能性も排除できないという。

 集団での胸部検診は本来、肺がんの発見を目的としておらず、伝染病である結核を見つける検診だからだ。このため、乳がん検診などと違って、がんを発見する技量と知識を持たない医師が、検診にあたるケースが少なくない。

 藤沢さんのX線写真では、部位が3年間にわたり、目立って成長していない。このため、国立がんセンター中央病院の金子昌弘内視鏡部長は「本人に自覚症状がないことや、この年代は結核の痕跡をもつ人が多いため、深刻なケースではないと誤判断をした可能性がある」とする。判断が難しかったのではないかというわけだ。

 金子部長は「少なくとも喫煙者など、肺がんを心配する人は、職場健診のこうした現実を認識し、実績のある検診機関で独自に検診を受けることをお勧めしたい」と指摘している。

(2007/05/08)

 

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