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治療費未払い−切迫する患者と病院(上)


 ■総額853億円 所得格差とモラル低下  

 全国の病院などで、治療費を回収できないままになる「未収金」が問題になっています。治療を受けながら、治療費を払わない患者が目立ってきているのです。全国5570の病院が加盟する四病院団体協議会がまとめた未収金は推計、約853億円。なぜこうした問題が起きるのでしょうか。東京のある都立病院のケースを取材しました。(柳原一哉)

 「手持ちのお金がありません」。東京のある都立病院。窓口で支払いを渋る患者が目立ってきたと、病院の収納担当職員がため息まじりに話す。

 患者は通例、窓口で受診を申し込んで順番を待ち、診察を受ける。受診後に、窓口で会計を済ませるが、窓口で費用を払えないケースが目立ってきた。

 医師法によると、医師は、患者が治療費を負担できるかどうかにかかわらず、受診の申し出を拒めない。病気になるのは、個々の経済力と無関係だからだ。患者はその場で払えなければ、病院に「猶予申込書」を提出し、後日の支払いを約束する方法がある。

 特に、急病で救急にかかった場合は、持ち合わせの現金が限られることもあり、一時的な利用は多いという。

 だが、名前別にファイルされた申込書が何枚も重なり、「特定の人が未払いを繰り返し、しかも期限までに払わないケースが目についてきた」と担当者は打ち明ける。いわばリピーターだ。

 皮膚科にかかった小学生(10)の母親のケース。母親は、計約10万円の治療・入院の費用について、猶予申込書を提出した。何度も猶予を申し出ていたため、書類は数枚もたまっていた。

 いずれも期限までに振り込みがなく、担当者がやむなく電話で督促すると、母親の返答は「書類を書いた覚えがない」「お金がないので払えない」というものだった。

 収納担当者は順を追って説明した。母親は文書を提出して、支払いが免除されたと思いこんでいた節もあり、1回の電話では分割払いの方法の説明にもたどりつけなかったという。

 担当職員は「経済力がないことが前提にある。払わない言い訳が半分だとしても、医療費は負担しなければならないという社会の仕組みへの理解がなさすぎる」と嘆息する。「国保には、事情のある人に窓口負担を減免する制度もある。早めに相談してくれれば、制度の利用を検討できたかもしれない」とも語る。

                  ◆◇◆

 こうして、この病院で積み上がった未収金件数は平成16年以降、約5000件。額は患者1人あたり数千〜数万円。東京都の病院経営本部によると、この病院を含めた全11の都立病院の未収金の合計額は13億円に上る。11病院の合計収益は1000億円超だから、経営の大黒柱を揺るがすものではないが、見過ごしにもできない。

 未収金の定義は、支払ってもらえない期間が1年以上になったもの。支払ってもらえない期間が1年未満のものも、さらに合計13億円あるが、1年以内に回収できる可能性が高く、いわゆる「未収金」からは除外されている。こちらは、1件あたりの額が数千〜数十万円とされる。

 その未収金が年を追って増加している。過去5年間の推移は約9億円(13年)▽約10億300万円(14年)▽約11億700万円(15年)▽約12億600万円(16年)▽約13億円(17年)−と右肩上がりだ。

 未収の理由は、先の母子のケースのように、経済力がないというものや、▽健康保険に加入しておらず、負担が高額で払えない▽支払いをいったん猶予された後、居所不明となった−など。

                  ◆◇◆

 未収金は、民間病院などに比べて、公的病院で高く、自治体病院の多くに共通の課題だ。この都立病院の事務職員は「公的な病院はセーフティーネット(安全網)としての性格が強い。問題の背景には患者の行政への依存心もある。民間病院はそう甘くはないはずです」と話す。

 これに対して、国内の病院の6割以上が加盟する四病協で、未収金問題を担当する山崎学・日本精神科病院協会副会長は「公立、民間問わない」という。「加盟病院の未収金額は計853億円(平成14〜16年度推計)に上り、1病院あたり1620万円。経営を圧迫するほどになってきた」と訴える。

 病院側は診療報酬の相次ぐマイナス改定で、収入が先細り。いわば、未収金に目をつぶる余裕がなくなってきた事情がある。一方で、「所得格差の拡大など、患者側の経済事情も未払いの原因になっている。一部ではモラルの低下もみられる」と山崎副会長は指摘する。

 それでは、未収金は今後も増え続けるのだろうか。明日は、患者と病院の医療ソーシャルワーカーが費用負担について事前に相談し、未払いを防いだケースを取り上げる。

(2007/05/28)

 

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