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これからの肺がん検診(中)CTと痰検査の併用 

左が、PETで確認された肺がん。右のCTの画像で左肺の下部に見える白い塊が肺がん。CTでは画面がより鮮明で、位置がはっきり確認できる(国立がんセンター提供)


 ■威力、従来の倍以上

 胃腸などの消化器と違い、内視鏡での診断が困難な肺がんには、X線などの画像診断が有効とされます。従来の胸部X線診断の限界が指摘されるなか、新たにコンピューターを利用したCTやPETといった最新の診断が注目されています。肺がん発見には、痰(たん)の検査も有効で、どんな組み合わせで検診を受けるかが、問われています。(北村理)

 「がん治療はまず、がんを見つけることからスタートする。その点、CT(コンピューター画像診断)が普及した今となっては、胸部X線診断の能力は限界があるといわざるをえない」

 ヘリカルCTを開発し、CT普及に貢献した国立がんセンターの森山紀之・がん予防検診研究センター長は言う。

 従来のX線撮影では、正面の写真を1枚撮るだけだが、CTでは、体に360度の方向からX線をあて、肺全体を輪切りにして撮影する。このため、X線撮影ではがんを他の臓器が遮ってしまい、見落とすことがあったが、CTでは“障害物”を取り除いた状態で見ることができる。

 それを、コンピューター上でミリ単位の連続写真に再現する。写真にすると、数百枚に相当する精密さで、最新のものでは、立体的に映像化することも可能という。

 CTは当初、従来のレントゲン撮影に比べ、被曝(ひばく)量が多いことが、欠点として指摘されがちだった。しかし、高速で大量に撮影できる「ヘリカルCT」が開発されてからは、被曝量も縮小された。

 ただ、コスト面では、X線診断が1000円前後なのに対し、5000〜1万円前後と、割高なのが難点だ。

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 しかし、「額だけの価値はある」と、森山センター長は言う。各地の実践例では、従来のX線診断に比べ、おおむね倍以上の威力を発揮しているからだ。

 東京都予防医学協会などが作った「東京から肺がんをなくす会」では、いち早く、平成5年にヘリカルCTを導入。従来のX線診断と痰(たん)の診断に加えた。

 同会によると、CT導入前の受診者数がのべ2万6338人なのに対して、導入後、平成17年までの受診者数はのべ1万9624人。受診者数は75%ほどなのに対して、がんの発見は、43人から85人に倍増した。

 発見された腫瘍(しゅよう)の平均は、約3センチから約1・7センチまで縮小。がんを小さな段階で見つけることができるようになったため、CT導入後の同会の内訳を見ると、胸部(直接)X線のみで発見されたケースはゼロになった。早期発見率も53・5%から89・4%に上がり、5年生存率は52%から78%まで、アップした。

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 もちろん、CTのみで、すべての肺がんが見つかるわけではない。特に、気管周辺のがんはCTで見つけにくいため、「やはり、喀痰(かくたん)診断との併用が必要だ」と、森山センター長は指摘する。

 なくす会のデータでも、CT導入後にがんが発見された85人のうち、5人は喀痰診断でしか発見できなかった。

 CTを補う検査で最近、注目されているのは「PET(陽電子放射断層撮影法)診断」。がん細胞が、ぶどう糖を多く摂取する特性を利用。ぶどう糖に放射性物質を加えた薬剤を静脈注射し、それを取り込んだがん細胞を特定する方法だ。

 ただ、PETにも得意分野と不得意分野がある。PETは映像がCTほど鮮明でないため、国立がんセンターの調査によると、がんが超早期で小さかったり、まだ、ぶどう糖を取り込むまで育っていないと、見つけにくい。

 PETの利点は、一度の撮影で全身の診断ができること。このため、CTで見つかりにくい場所や、転移を見つけるのに有効だ。

 森山センター長は「いずれ、PETとCTを組み合わせた方法が、がん検診の主流となるだろう」とする。PETは現時点で薬剤だけでも数万円することから、費用が10万円前後かかり、「検診より、保険のきく治療現場での使用が一般的」だ。

 CTやPETは、データ量が多い。このため、国立がんセンターやなくす会などでは、まずコンピューターに診断させ、ある程度チェックしたのちに、複数の医師が判定する。

 こうしたコンピューターシステムは国内で開発されておらず、森山センター長は「どこでも安心して診断を受けられるようにするには、医師の判断力の標準化とともに、総合的な情報処理システムの開発が急務だ」と指摘している。

(2007/06/13)

 

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