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これからの肺がん検診(下)

ヘリカルCTによるがん検診。撮影と同時にコンピューター上で肺の様子が診断できる=東京都江東区の癌研有明病院


 ■職場健診にドック義務づけ 早期発見へ意識改革

 受診率が伸び悩んでいるがん検診ですが、社員にがん検診を義務づける企業や、企業に積極的に健診方法の改善を働きかける健診機関も出てきました。国はがん死亡率の減少を目指し、自治体で行われているがん検診の実施率向上を目指しています。しかし、各企業に義務づけている社内健康診断との整合性は見えないままです。(北村理)

 「驚きましたね。やはり、がん検診は受けるべきだと思いました」

 機械専門商社「ヨネイ」(東京都銀座・社員155人)の業務統括部長代理、石川裕之さん(46)はいう。

 同社は一昨年から、50歳以上の社員に、年1回の職場健診として、人間ドックによる「がん検診」を義務づけた。35歳以上の希望者も対象だ。

 初年度の秋、「率先垂範すべき」と、人事担当の石川さんが受けたところ、胃に進行がんが見つかり、即入院。胃の4分の3を切り取る手術を受けたのだ。

 同社は、職場健診を委託する癌研有明病院(東京都江東区)が、がん治療のトップクラスであることもあって、以前から希望者には「がん検診」の機会を提供してきた。

 ところが、長年総務に勤務する石川さんも「先送りにしていた」というほど、受診者数が少なかった。このため、福利厚生を見直す際に、思い切って50歳以上の人間ドック受診を義務づけたのだ。

 健診費は、1人につき約1万円の負担増。社員に負担させず、企業負担にした。「社員の平均年齢が高く、がんの危険性が高い。会社の状況に合う職場健診にした」(石川さん)という。この結果、がん検診の受診者は一昨年50人、昨年70人と増加した。

 その結果、がん検診が義務づけられてからこれまでに、石川さんと同様にがんが見つかり、治療を受けたケースは数件に上った。

                  ◆◇◆

 「職場も健診機関も意識を変え、がん予防を社会的に明確にしないと、がん対策は進まない」と、癌研有明病院の高橋寛・健診センター長はいう。

 同センターはそれまで、ヘリカルCTを含む肺がん検診を、追加選択として、1万8000円で提供してきた。その後、人間ドックの項目としては8000円に値下げ。それでも、受診者増の効果があまり見られなかった。今年4月には、人間ドックの全コースを5000円値上げし、ヘリカルCTを必須項目に加えた。

 他機関では、ヘリカルCTに1万〜2万円かかることを考えると割安だが、健康診断を委託する会社には、5000円の負担増を求めることになる。

 しかし、高橋センター長は「肺がんは早期で治療しないと、生存率が低い。早期発見に限界のある胸部X線診断にこだわっていては、健診機関としての責任は果たせない。各企業にもそう伝えた」という。結果、受託先の企業の9割が5000円の値上げを承諾したという。

                  ◆◇◆

 ただ、ヘリカルCTは精密な画像が映るため、検診に取り入れた場合、がんでなくても、“異常”を指摘される人も多い。このため、こうした人への受け皿整備が課題だ。

 そこで同センターでは、がんでなかった人の情報を、有明病院の「総合内科」で蓄積。異常に経年変化が認められれば、各診療科に振り分けるようにしている。

 ヘリカルCTを開発した国立がんセンターがん予防・検診研究センターの森山紀之センター長は「がんを見つけるには、検診技術の開発はもちろん、医師や技師らの技術アップが必要だ。しかし、それだけではなく、検診を受けてもらえるような環境整備が不可欠だ」と強調。学校や職場、地域などで検診を受けてもらえるような、啓発の重要性を説く。

 啓発といっても、がん治療の知識ではなく、「がんと診断される前」の知識だ。森山センター長は「それがなければ、検診を受けに来ない」と指摘する。

 癌研有明病院の健診方法の変更は、企業など被検者の意識を変えたケースといえる。

 健診でがんが見つからないまま、家族を失った遺族らは「『異常なし』という情報を与えられれば、本人にできることには限界がある」と口をそろえる。

 国はがん対策基本法を制定、今後10年でがん死亡率を20%減少させるとし、がん検診の普及を目標に掲げる。現在、自治体などで行うがん検診の見直しが進められている。しかし、国が企業に義務づけている健康診断で、がんをどう扱うかは、はっきりしないままだ。企業健診を受けた人の多くが、肺がんなどのチェックも行われていると誤解しがちな現状を考えると、企業健診の効率的な改善が早期に求められそうだ。

(2007/06/14)

 

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