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総合科をめぐる攻防(上)

総合診療科の門戸は広く、全人的な診察が求められる=川崎市立川崎病院



 ■専門分野の垣根越え 幅広い臨床能力発揮 

 「消化器科」「呼吸器科」「泌尿器科」など、“臓器別”の専門分野にこだわらずに患者を診る「総合科」。「総合的な医療」には、どのような長所や課題があるのでしょうか。総合診療科を設けた病院の取り組みから報告します。(柳原一哉)

 JR川崎駅に近い川崎市立川崎病院(733床)。このマンモス病院には、日に平均2000人弱の外来患者が訪れる。

 初診では、どの診療科にかかればいいか、迷う患者も多い。薬を飲んでも治らない、かぜに似た倦怠(けんたい)感や頭痛などの不定愁訴、複数の病気が絡み合ったケース…。

 こうした患者を一手に引き受けるのが、総合診療科だ。同科の鈴木貴博部長は「従来の診療科の垣根を越えて、常に患者の全身をチェックするという臨床態度で診る。必要なら専門医へつなぐ役割だ」と話す。頭痛を訴えてやってきた患者が、心の病を背景にした不定愁訴ということもある。かぜ症状一つでも、総合科では可能性を探る態度が求められる。

 原因がはっきりしない「不明熱」は、難病の膠原(こうげん)病はじめ、感染症などが潜んでいる恐れもある。「特に初診では、全人的に患者を診る総合診療が必要」。鈴木部長がこう強調するのは、専門医が陥りがちな「見落とし」の轍(てつ)を踏むまいとしているからだ。こんな例がある。「胸が痛い」と訴えた患者を、心臓の専門医が胸の音などを聞いたが、異常はない。しかし、専門医は腹部の触診をしていなかった。

 患者は最終的に、胃潰瘍(かいよう)だった。胃潰瘍では、患部と離れた部分が痛む「関連痛」はよくある。専門医が可能性を検討し、腹部触診をしていれば、早めに診断がついた可能性も残る。鈴木部長は「触診は医師の基本。専門医は専門臓器だけを詳しく診る姿勢に陥りやすい」と警鐘を鳴らす。

                  ■□■

 総合的な医療を担う「総合医」への期待が高まっている。しかし、聖路加国際病院(東京都中央区)の福井次矢院長は「総合医は『どの分野もある程度しか診ることができない医師』と、専門医から見下されている」と、歯がみする。

 背景には、大学医学部で臨床より研究が優先され、専門性が強調されがちなことがある。福井院長は「入学時は、学生の半分以上が患者のどんな相談にも乗れる赤ひげのような医師になりたいと考える。しかし、卒業時には、その割合は数%。総合医はつまらない医師というメッセージが発し続けられているからだろう」と話す。

 専門医志向は、患者にも見られ、「頭痛がする」と、いきなり脳外科にかかるなどの傾向を生む一因にもなっている。福井院長は「特定の分野で評価すれば、総合医よりも専門医の能力が高い。だが、総合医は幅広い臨床能力を持つ。病気の頻度からいっても、患者の7〜8割の訴えを解決できる」と主張する。

                  ■□■

 昨年1月に総合診療科を開設した東京医科大学病院(東京都新宿区)。発足から1年半で見えてきたのは、訪れる患者が重症者ばかりでないことだ。どこにかかっていいか分からない患者を引き受けるが、専門医へ“橋渡し”するのは3割程度。

 課題は時間だ。不明熱▽倦怠(けんたい)感▽疲労感−などを、特定の病気や臓器に限らず、幅広く診るため、患者との丁寧な意思疎通が重視されるから、診察時間は長くなる。

 同科の大滝純司教授は「厳密な比較はないが、総合診療科は採算割れ状態。1人を診るのに人手と時間がかかる小児科で不採算が多いのと同じ図式です」と課題を挙げる。患者が必要とする「総合的な医療」を提供するには、診療報酬の加算も検討が必要というわけだ。

 総合診療科」は現在、厚生労働省が医療法で定める「標榜(ひょうぼう)診療科」に入っていない。このため、院内で表示はできても、外部には掲げられない。しかし、厚労省は5月、標榜診療科への“格上げ”を検討し始めた。関係者からは「診療報酬で加算がつくか」と、期待もつのる。総合科をめぐる動きを次回、お伝えする。

                   ◇

 順天堂大学医学部付属順天堂医院の総合診療科で平成6〜16年に初診を受け、入院した不明熱の患者215人の調査。

 不明熱の原因は麻疹(ましん)や風疹(ふうしん)などの感染症が全体の半数近い。だが、原因は多種多様で、最終的に診断に至らず、「不明」のケースも17・7%に上った。調査では、「不明熱患者の診断の遅れは患者の生命の予後に直接影響する。(発熱に関する)知識のアップデートは欠かせない」と結論づけられている。

(2007/07/02)

 

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