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総合科をめぐる攻防(中)

初診の患者には心強い総合医だが、「総合科」新設には紆余(うよ)曲折がありそうだ(写真はイメージです)


 ■厚労省は創設に前向き 日医「患者の自由阻害」 

 幅広く患者を診る総合医の存在は、患者の利益になる上、医療費抑制も期待できることなどから、厚生労働省は総合科創設に前向きです。しかし、日本医師会などは、厚労省の総合科創設案は、患者が自由に診療を受けられる「フリーアクセス」を制限すると批判しており、なお論争が続きそうです。(柳原一哉)

 北海道に住む医師、木場登さん(32)=仮名=が家庭医(総合医)としての手応えを感じたのは、ある患者との出会いがきっかけだった。北海道室蘭市のクリニックに赴任した平成12年ごろ、その女性患者はかぜで具合の悪い幼児2人を連れ受診に訪れた。

 診察後、木場さんがさりげなく「育児はうまくいっていますか」と尋ねたところ、返ってきたのはあいまいな言葉。聞き進めると、女性はすでに鬱病(うつびょう)の症状を示していた。

 後に、子供を乱暴に扱ってしまうこともあることが分かり、地域の保健師らとも協力し、女性への育児支援を開始。投薬とカウンセリングを進めるにつれ、心の病も改善した。まだ駆け出しだった木場さんは手応えをつかんだという。

 ただ、女性はその後、なかなか完治せず、家庭も不安定で順風満帆ではなかった。一時は「消えてなくなりたいと思ったことがあるか」などの質問に肯定的に返答をしたことも。

 しかし「ここに来ると安心できる」と、8年間にわたってクリニックを訪ね続ける。木場さんは「患者の気持ちを共有するだけだが、地味なサポーター的な医師も役に立っている」と話す。

 現場の最前線で患者を診る医師は総合医、家庭医、プライマリー・ケア医などといわれる。呼び名は多様だが、木場さんのように、患者に徹底して寄り添っていると、家庭医や総合医は自負する。

 子供の具合が悪ければ、子供の生活を支える保護者が健康的かどうかにも注意を払う。必要があれば、心の病の専門医へ紹介する。医師で対応できない問題行動は保健師らにも協力を仰ぐという具合だ。

                   ◇

 このように、地域で活躍する総合医も念頭にあるのか、厚生労働省は「総合科」の創設に向けた検討を始めた。医療が縦割りの専門性を強めたことへの問題意識が背景にある。

 診療科は細かく分かれ、患者はどの科を受診すればいいのか分からないことがある。ある科では問題なしと診断されても改善せず、別の科へ「はしご」するケースも見聞きされる。

 このため厚労省は内科、小児科など、幅広い領域を総合的に診断する「総合科」が必要と判断。従来の内科、整形外科、眼科などと同様に、医療法上の診療科に位置づける案を、5月の医道審議会医道分科会に出した。

 案では、総合科医は、現在の麻酔科医のように、厚労相の許可が必要な公的資格にする。また、「一定の能力がないと、総合医療は不可能」との判断から、総合医養成システムを整備する考えだ。

                   ◇

 総合科構想は、柳沢伯夫厚労相が経済財政諮問会議に提出した「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」にも盛り込まれた。狙いは医療の効率化だ。

 複数の病気を抱える患者が複数の科にかかるより、1人の総合医がまとめて診れば、患者の利益にもなり、結果として医療費抑制にもつながる。

 また、総合医1人で何人もの患者を診られれば、医師の数も少なくて済み、配置の効率化も図れる。医師不足の解消にも役立ちそうだ。

 一方、日本医師会も、幅広く患者に対応できる総合医の長所を認識。日本総合診療医学会など3学会と、総合医養成プログラムを検討している。日医と厚労省は総合医への期待感を共有しているかに見える。

 しかし、この問題で日医は厚労省と鋭く対立する。日医は厚労省が初期診療を総合科医に限定するつもりではないかとの疑念を抱いており、厚労省案について「病気になれば、保険証1枚で、いつでもどこでも自由に診察を受けられるフリーアクセスを阻害しかねない」と反対する。

 厚労省は現在、高齢者の在宅医療で「在宅主治医」(かかりつけ医)と呼ばれる医師を中心に、病院や訪問看護師、ケアマネジャーら医療と介護が連携する方向を目指している。

 医療関係者からは「この在宅主治医を、総合科資格を持つ医師に重ねる制度になっていくのではないか」との指摘も出る。そうなると、総合科資格のない開業医の可能性は狭まりかねない。厚労省と日医の思惑の違いが、総合科医誕生の行方を見えにくくしている。

(2007/07/03)

 

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