■医療機関で掲示可へ “格下げ”分野は反発
医療機関が掲げる表示には、掲げてよい診療科と掲げてはいけない診療科があります。この標榜(ひょうぼう)科を、厚生労働省は医療機関が得意分野をアピールできるよう再編する意向です。「総合科」の新設が脚光を浴びるなか、再編で“格下げ”になる診療科の関連学会からは反対意見が相次いでいます。(柳原一哉)
横浜市の団体職員、佐川博さん(34)=仮名=は大学院生のころ、鬱病(うつびょう)、自律神経失調症にかかった。当初は何の病気か分からず、どの診療科にかかればよいのか、右往左往したという。
院生時代、「食事がとれない」「動けない」などの症状が続いた。ある日、パニックになり、「これはおかしい」と救急車で総合病院に向かった。だが、切迫した割に、内科の診察や心電図、レントゲン検査も「異常なし」だった。
腑(ふ)に落ちぬまま、静養を心がけて暮らしたが、学会発表を前に多忙を極め、再び体調不良に。同じ病院内科で別の医師を受診したところ、紹介されたのが心療内科だった。そこで投薬治療などを受け、軽快。完治したわけではないが、今も仕事を続けている。
佐川さんは「心療内科との出合いがなかったらと思うと…。何の病気か分からず、どこに行けば治るかも分からず、苦労しました」と振り返る。
それだけに、厚労省が打ち出した標榜科再編のニュースで心療内科が再編対象になっていることを知り、「心療内科が消えて、精神科に行くことになるのは、抵抗感がある」と複雑な心境だ。
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医療法は、医療機関が看板など、外部への表示が可能な「標榜診療科」を限定している。厚労省の打ち出した改正案では、現行38の標榜診療科を、新設を含む26の「基本的な診療科」に整理統合する。
同時に、患者が十分な情報を確保できるよう、「サブスペシャルティー部分(専門性の高い診療科領域)」を原則、自由に表示できるようにする。この結果、従来は標榜診療科だった「心療内科」や「アレルギー科」「リウマチ科」などは単独では掲げられなくなる。副次的な診療領域に“格下げ”になるわけだ。
診療所は原則、医師1人につき、基本的な診療科を2つまで掲げられる。現在は「内科」「外科」のような基本的診療科と、「アレルギー科」などの専門分野が混在しているが、厚労省は再編で、医師の基本領域をはっきりさせ、専門的な分野は「サブ」として掲げてもらいたい意向だ。
「サブ」には具体的に、現行の標榜科から落ちたアレルギー科や心療内科をはじめ、腰痛、漢方、不眠、ペースメーカー、在宅医療、サイコオンコロジー(精神腫瘍(しゅよう)学)などが入る見通し。
再編を歓迎する向きもある。首都圏のある診療所は、不眠の改善が得意分野。しかし、これまで看板には「不眠外来」が表示できず、心療内科などを表示してきた。そのうえで、いわば、苦肉の策として、診療所名そのものに「スリープ」の言葉を入れ、アピールしてきた。
院長は「これからの議論にもよるが、サブの部分で睡眠外来や不眠外来のような、そのものずばりの表示ができるなら、看板に掲げることを考えたい」と話す。
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しかし、標榜診療科から名前が消える「リウマチ科」や「アレルギー科」の関連学会は危機感を募らせる。
これまでに22の学会が反対意見書や慎重な議論を求める要望書を厚労省に提出した。
例えば、女性に多いリウマチは、内科や整形外科にまたがる領域で、患者からは「どこにかかればいいか分かりにくく、分かったころには重症化している」との不満が強かった。
このため、日本リウマチ学会や患者団体が厚労省に働きかけ、平成8年に「リウマチ科」がやっと、標榜診療科に入ったいきさつがある。
同学会などは5月、10周年記念パーティーを開き、標榜科に認められた喜びを再確認したばかり。同学会理事長の小池隆夫北海道大学医学部教授は「リウマチの診療は標榜診療科になったこともあって、飛躍的に発展してきただけに、診療科の撤廃は到底受け入れがたい」とする。
日本アレルギー学会も「混乱を招く」と、性急な決定を避けるよう要望書を提出した。
厚生労働省医政局は、「より自由でわかりやすい表記ができるようにするのが狙い」と理解を求める一方、「今後、関連学会や患者らの意見を聞きながら、慎重に議論を進めていく」としている。
(2007/07/04)