得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

がんと向き合う−阻害するドクターハラスメント(中)

がん患者の相談事業を始めた三好立医師=東京・銀座の「キャンサーフリートピア」


 □標準的治療に固執

 ■患者の納得する医療を

 患者のショックを考慮せず、医師が心ない言葉を投げるドクターハラスメント(ドクハラ)。言葉の問題だけでなく、患者の意向を反映させていない従来のがん治療に疑問を抱き、その改善に努力する医師もいます。「がん告知や治療は、患者が人生に何を望み、治療が生活にどう影響するかを配慮して行うべきだ」と主張します。(北村理)

 大阪市の男性(59)はたんに血が混じり、「念のため」と受けたCTの検査で肺がんが判明した。

 腫瘍(しゅよう)の大きさは3センチで、ステージIIと診断された。今年4月に病巣は手術で取り除かれ、その後は抗がん剤の治療を勧められた。

 男性は「まじめ一筋のサラリーマン」(男性の妻)。定年間近だったが、「仕事の手が足りない」と、勤務の勤続を望んだという。

 そこで、主治医にその旨を伝え、治療を受けながら会社に通おうと、副作用の少ない、量を減らした緩和的な抗がん剤治療を希望した。

 しかし、主治医は標準的な抗がん剤治療を主張。結局、男性は独自に調べて別の医療機関で免疫療法が受けられることを知り、保険適用外だったため、約150万円を支払って治療を受けた。

 男性の妻は「主治医からは、標準治療を行ったデータがほしいような印象を受けました。夫がどう生きたいかも含めて、治療方針を話し合える様子でもなかったので、そうした姿勢に納得できず、別の医療機関で別の治療を受けることを選択しました」と打ち明ける。

                   ◇

 「医師の言葉から受けるショックだけがドクハラではありません。医師が患者のQOL(生活の質)を無視し、標準的治療に固執することも、患者にはドクハラにあたる。医療者が改善すべき点だと思います」

 今年5月、東京・銀座に、がん患者のための相談窓口「キャンサーフリートピア」を開き、代表医師となった三好立(みよしたつ)医師はそういう。

 キャンサーフリートピアは、「ドクターハラスメント」という言葉を作り、その概念を広めた故土屋繁裕医師が7年前に開設した。土屋医師が一昨年、病気で急逝した後、がん専門病院で同僚だった三好医師が後を継いだ。

 現在、有料で1人に約2時間の相談を行う。年会費は初年度に20万円、相談料は最初の1時間で5万円だ。会員には、三好医師の携帯電話を伝え、24時間体制で応対するという。

 「がんに向き合うことは、患者さんと家族にとって人生そのものといえる一大事業。それを3分診療で外来の医師1人で対応しようというのが無理な話です」

 相談に訪れるのは、末期がんの患者が多いこともあり、抗がん剤の緩和的療法(休眠療法)を中心とし、あとは患者の望むライフスタイルに合わせ、患者が納得できる治療法を模索する。

 「患者さんに分かってほしいのは、治らないがんもあるということ。しかし、がんと共存する道もあるということです」

                    ◇

 治療の選択肢を広げるには、主治医以外の医師の意見を求める「セカンドオピニオン」が有効だ。

 セカンドオピニオンを普及させるのに、大きな役割を果たしたのが、NPO「キャンサーネットジャパン」(東京都文京区)の吉田和彦理事長(東京慈恵医大付属青戸病院外科診療部長)と南雲吉則前代表(ナグモクリニック院長)らだ。

 同NPOは約20年前、米国に留学していた吉田医師が「患者が、医師と対等の立場で治療法を探る姿に感銘を受けた」ことをきっかけに、始まった。

 もともと、共にがんの専門病院に勤務。「がん治療が医療者主体で、患者無視になりがちなことに疑問をもっていた。患者が医師と対等の立場となるには、情報が必要だと感じた」(吉田理事長)という。2人は、米国の取り組みを翻訳本にして紹介したり、海外のがん治療の情報を提供するサイトを立ち上げた。

 南雲医師はこの間の進歩について、「患者が情報を持てるようになった」と評価するが、一方で「情報格差が生じ、多くの情報にとまどう人たちが出てきた」と指摘する。

 こうした状況を解消しようと、同NPOは、がんの体験者に医療知識を提供、医師と患者の間で情報の交通整理をしたり、患者の心理的サポートをする民間コーディネーターの養成を始めた。将来は、各地の病院に、がん患者のQOLに配慮した治療モデルを提示し、コーディネーターを配置してサポートにあたらせたいという。

 かつて、吉田、南雲両医師と同じがん専門病院に所属していた三好医師は「患者の生き方に主眼を置いて、がん告知や治療が行われないと、ドクハラはなくならない。ドクハラは言葉のやりとりだけでなく、がん対策の構造的な問題の一端でもある」と主張している。

(2007/07/17)

 

論説

 

 
 
Copyright © 2007 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.