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がんと向き合う−阻害するドクターハラスメント(下) 

自らがんの経験者でもある千葉県がんセンターの相談員、野田真由美さん(北村理撮影)


 □患者の努力 

 ■遠慮せず説明求めて

 がん治療では、進行や転移を抑える治療だけでなく、患者のQOL(生活の質)の維持が求められます。そのために、医師は患者の心情を理解し、患者はがんについての知識を蓄える、歩み寄りが必要です。両者をつなげる努力も、少しずつ実を結びつつあります。(北村理)

 がんとの闘病生活4年という大阪府在住の女性(39)は、主治医の転勤にともない、これからは転勤先の医療機関にかかるつもりだ。

 「手術後の嘔吐(おうと)に苦しむ私に制吐剤を処方してくれたのは、7人の執刀チームで1人だけでした」。コミュニケーションが取れ、自分の思いを理解してくれる“相性の良い医師”だという。

 女性が、がん告知を受けたのは大学病院。ショックを受けた女性をそっちのけに、医師は直後から、学生相手に腫瘍(しゅよう)の講義を始めたという。

 女性は「医師は病巣をどう制圧するかに関心が傾く。でも、がんは治療方法や、それによる生活への影響が千差万別だから、医師に依存し、その対応に右往左往していたら不満が募るのは当然です」という。

 ただ、闘病のパートナーとして、医師の協力は不可欠。女性は「あらゆる手段を駆使して医師とのコミュニケーションを図ります」という。質問は前もって個条書きにし、手際よく聞く。医師が忙しそうなら、メモにして看護師に託す…。

 そのためには、患者自身が病気を理解し、治療の知識をもつ必要がある。女性はインターネットなどで情報を収集。患者仲間やボランティアの医師と情報交換もする。                   ◇

 「医師への不満以前に、医師に遠慮している患者さんが多い」というのは、千葉県がんセンターで、患者の相談窓口を担当する野田真由美さん(49)。野田さんは自らも乳がん患者。医療の専門家でない患者が、医療を担う一員として活躍する例は珍しい。

 「がんの闘病は、患者さんそれぞれに個性があるので、体験の押しつけはしません。迷いや誤解を解いて、背中をおすのが私の仕事です」

 たとえば、「抗がん剤の使用で気分が悪い」と相談されれば、「先生に言って、量を調整してもらえばどうですか」とアドバイス。「そんなことをお願いしてもいいのか」と言っていた患者が「(医師に)お願いしてよかった」と、にこやかに家路につく。そんな後ろ姿を見守る日々だ。

 同じ相談員の土橋律子さん(52)は看護師。18年にわたり、子宮がんなど4つのがんと向き合ってきた。

 「がんは進行や転移があり、治療後も長い闘いになる。患者の人生そのものも変わるが、医師は治療に対応するのが精いっぱい。患者もそうした雰囲気にのみ込まれがちです」という。

 看護学校などで講師も務める土橋さんは、初期段階から痛みのコントロールや精神的なケアが必要だと強調する。それが、積極的にがんと向き合うカギになるからだ。「がん患者だって生きたい。必要なのは、あきらめでなく、希望の光。それを与える余裕が、今のがん治療の現場には必要です」と指摘する。

                   ◇

 昨日紹介したがん相談機関「キャンサーフリートピア」の三好立医師は、がん患者と医師の関係について、「『治療のしようがない』といった告知や、根拠のない余命の予測なんか、患者には必要ない。がんの闘病は患者が主役。医師は耳を澄ませ、患者が生きるサポーターに徹するべきだ」。

 NPO「キャンサーネットジャパン」の南雲吉則医師は「患者は、がんを告知されたときから命と向きあわざるを得ない。医療現場が大変でも、医師は患者の気持ちをくみ、説明する努力をすべきだ」と強調する。

 ドクハラの撲滅を目指す日本医師会は医師の資質向上と同時に、患者の努力をも求める。今春発表した「グランドデザイン2007−国民が安心できる最善の医療を目指して」では、「患者の責務」を明示。患者も医師に納得のいく説明を求めるべきだなどとした。

 だが、冒頭の女性は「何度、医師の前に行っても、やはり身を預けてしまう。それが、不安をぬぐえず、絶えず不安にさいなまれる患者の正直な気持ちです」と、真情を吐露する。

 一部の医師の間では、患者のQOLへの配慮を前提にしたがん治療を打ち立てようと、学会創設の動きが出ている。

 今年4月施行の「がん対策基本法」では、患者の立場の尊重がうたわれ、がん診療連携拠点病院には相談窓口の設置が求められた。冒頭の女性は何人もの患者仲間を見送った。「そういう人たちの声で、日本のがん治療が進みつつあると信じたい」としている。

(2007/07/18)

 

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