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あきらめないがん治療−未承認薬の現状(下)


 □人道的使用

 ■手だてない患者へ積極的に

 がん治療の最後の手段とされる「未承認の抗がん剤」。しかし、国内で承認されていないため、健康保険が使えず、費用は高額です。薬が効いて、長期投与になれば、経済的な負担が膨大になる−という深刻な構図があります。今回は、未承認薬の位置付けを見直し、「ほかに手だてがない」とされた患者には積極的に使えるようにしようという動きを紹介します。(中川真)

 「ドラッグ・ラグ」。欧米で承認済みなのに、日本では未承認で、抗がん剤などの新薬が使えない状態のことだ。

 厚生労働省などによると、他国で承認済みの新薬を承認するまでの期間は、米国が約1年半なのに、日本は約4年もかかる。

 日本では、製薬会社の治験の態勢が不十分なうえ、承認審査(独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」が実施)も、欧米より安全性や有効性に厳しく、ハードルも高いからだ。

 厚労省は見直しを進めているが、未承認薬が今、必要な患者には間に合わない。そこで、標準治療で「治療法がない」とされる患者に限り、未承認薬の使用を認める「コンパッショネート・ユース(人道的使用)」が注目されている。

 欧米ではすでに始まっており、日本も6月、厚労省の検討会が導入を求める報告書をまとめた。医師が使用する際の責任を持ち、国も一定の関与をする。導入されれば、未承認薬に慎重な病院の姿勢も変わり、「治療法がない」とされた患者に選択肢が増えることも期待される。

                  ◆◇◆

 帝京大医学部付属病院(東京都板橋区)の藤巻高光・脳神経外科准教授は、製薬会社の協力を得て、悪性脳腫瘍(しゅよう)用の抗がん剤「テモゾロマイド」を、平成16年から国内で承認された昨年9月まで、計40人の患者に投与した。

 悪性脳腫瘍は、再発すると有効な治療法がなかったが、この薬は腫瘍の拡大を防ぐ効果があるとされ、「何十年ぶりの画期的新薬」(藤巻准教授)と期待された。

 この薬は当時、日本でも治験が行われていた。治験では、患者負担はゼロだが、参加できるのは、製薬会社の求める病状や治療歴などに合致する人だけだ。

 ただ、この薬に関しては、普及に力を入れる製薬会社が、藤巻准教授に無償提供を提案。学内の倫理委員会もインフォームド・コンセント(患者への説明)の徹底などを条件に、重篤な患者に人道的使用の形で使うことを承認した。

 藤巻准教授は「40人のうち、半数には効果がなかったが、30カ月以上、存命している人もいる」と話す。患者は月1度の外来で5回分の錠剤をもらう。東北や山陰などから通う患者もいたという。

 個人輸入なら当時、月30万〜40万円もかかったが、藤巻准教授が幹事役になり、輸入代行や輸送にかかる費用だけを、患者が“割り勘”で払った。1人あたりの負担は副作用防止の併用薬を含めて月数万円。結果的には、薬が承認され、健康保険が使えるようになった後の方が、むしろ患者負担は増えたという。

 人道的使用について、藤巻准教授は「ほかでさじを投げられた人が、少しでも元気な時間を過ごせるなら、いい仕組みだと思う」と期待をかける。

 ただし、抗がん剤は副作用も強い。藤巻准教授は「専門知識がある医師が慎重に投与しないと危険だ。『ちょっと専門』といった程度の医師や病院が最も危ない」と安易な普及には警鐘も鳴らす。

 しかも、この方法でも、「患者負担」という大きなハードルがある。帝京大のように製薬会社から無償提供を受けられるケースは珍しい。厚労省の検討会は健康保険の適用について、報告書で「あわせて検討されることが好ましい」と求めた。

 しかし、厚労省が制度の枠組みや導入の方針を決めるのはこれからだ。健康保険を担当する厚労省の保険局も「仕組みが決まらないと、保険適用について検討できない」と、現段階では慎重だ。

                  ◆◇◆

 「少なくても抗がん剤などについては、海外で標準薬と認められた新薬を、審査を簡略化して、まず一括承認すべきだ」と訴える医師もいる。がんの薬物療法に詳しい、京大医学部付属病院で探索医療センター検証部長を務める福島雅典教授だ。

 福島教授は、米国の国立がん研究所(NCI)が世界に配信する最新がん情報の日本語版「がん情報サイト」の総監修・監訳も行っており、「米国では毎年、5種類くらいの抗がん剤ができている」と話す。日本では、こうした薬が承認されるまで「ドラッグ・ラグ」が生じる。福島教授は「日本では、標準医療を受ける当然の権利が損なわれている」と、現状を厳しく批判している。

(2007/08/30)

 

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