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難治がんと生きる(上)根治せずとも共存

休眠化学療法を受けた患者と治療計画を立てる三好医師=東京の銀座並木通りクリニック


 今後10年以内に2人にひとりが、がんで死亡する時代が来るといわれ、がんは「国民病」の様相を呈しています。そんななか、標準治療が適合しにくくなった人への治療法と、生活の質の維持が模索されています。(北村理)

 東京・銀座の地下で食べた370円のカレーを思いだすたび、千葉県に住む荒川豊夫さん(43)、絵美子さん(43)夫妻=いずれも仮名=は涙する。

 今年5月下旬の午後、銀座のクリニックで抗がん剤の低用量治療を受けての帰りのこと。

 「香りに食欲をそそられ、思わずお店に飛びこみ、気がついたら、カレーをほおばっていて。その瞬間、ふたりで顔を見合わせ、人目もはばからず、ぼろぼろ泣いてました。『あー、食べられたんだね』って」

 それまで、不眠と腹水で苦しみ、貧血で食欲がわかず、衰弱が激しかったのが、うそのようだった。

 豊夫さんには昨年6月、転移のある膵臓(すいぞう)がんが見つかり、総合病院で「手術はできません」と宣告された。抗がん剤治療を始めたものの、副作用で体力が続かず中断。がんの専門病院で「この手術をできるのは私だけ」という医師の言葉を信じて手術を受けたが、腹膜に転移しており、開腹したにとどまった。

 「あとは緩和治療だけです」と、治療を放棄したかのような言葉を繰り返す病院への不信感。別の医療機関で漢方を処方してもらったが、手術痕(こん)の炎症が悪化、腹水もたまり出した。モルヒネで胃が荒れ、食欲もなくなった。

 そんな時、患者の体力にあった治療をしてくれるという銀座のクリニックの評判を聞きつけた。

 そこで痛みをとる緩和ケアを受け、体力を回復。同時に、免疫力に応じ、標準量の数分の一の抗がん剤を実施してもらった。それだけで腹水はおさまり、腫瘍(しゅよう)マーカーの値も10分の1に低下した。今もその状態が続いている。

                   ◇

 荒川さんがたどり着いたのは、「銀座並木通りクリニック」(東京都中央区)。がん治療を専門とする三好立(たつ)医師が院長を務める。

 三好医師は抗がん剤の低用量治療「休眠化学療法」の第一人者、高橋豊・金沢大がん研究所教授や理化学研究所発のベンチャー企業と連携。休眠化学療法や免疫療法、緩和ケアなどを実施している。患者には、手術や抗がん剤の標準治療が適合しにくくなった進行・転移がんの人が多い。

 神奈川県に住む篠原陽子さん(60)=仮名=もそのひとり。篠原さんには3年前、乳がんが見つかった。地元の公立病院で手術を受けたが、再発。再手術後、抗がん剤の標準治療を受けたが、「足がしびれて、目がかすんだ状態が半年以上続き、生きる気力を失っていた」という。

 その後、休眠化学療法と出合い、標準の3分の1量から治療を始めたところ、副作用が消え、容体も安定した。「余命1年といわれて、3年たったのが信じられない」という。

 三好医師は「当院に来る患者さんには、体力に合わない治療を説明もないまま受け、命を落とす一歩手前まで行った人もいる。それでも、生活ぶりや病状を見極めて治療計画を立て直せば、状態は良くなり、病状も悪化しないケースが多い」という。

 そのうえで、「標準治療を否定するわけではない。当院で体力が戻った患者さんに、標準治療をすることもある」。実際に標準治療に戻り、肺全体に散っていたがんが消えた例もあるという。

                   ◇

 「患者さんの肉体には当然個性があり、同じ抗がん剤を使用しても、適応能力には数倍から数十倍の開きがある」と、高橋教授は言う。高橋教授は、抗がん剤の副作用の国際基準をもとに、比較的低い段階から、使用量を調整する。「効果に差が出るのは、投与量ではなく、投与期間の長さだ」と主張する。

 抗がん剤を継続的に使うには、副作用など、患者の体力への影響を最小限にする必要がある。

 しかし、日本では、抗がん剤の使用量に個人の体力は考慮されていない。身長と体重などをもとに決められた最大量が標準治療とされている。こうした現状について、高橋教授は「体力の落ちた進行がんの患者には特に、非常に危険な状態をもたらす。がんが進行してしまった場合、根治はしないが、治療を継続し、がんと共存する道を取るべきだ」と指摘する。

 冒頭で紹介した荒川さんは働き盛り。17歳と19歳の子供がいる。「仕事に復帰したい。がんは根治しないとしても、今の状態が続いたら、それも不可能ではないと思い始めています」と話している。

(2007/09/17)

 

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