産経新聞社

ゆうゆうLife

【ゆうゆうLife】社会保障これから 医療費のしくみ


 WHOの評価では、日本の医療は世界一とされたが、医療費は低く抑えられている。これはどうしてだろう。

 WHOの順位付けの後、日本に調査にやってきた海外の学者や行政担当者が評価した一つが、医療費を管理する仕組みだ。

 日本では、治療にかかる費用や薬剤費は、厚生労働省に置かれた「中央社会保険医療協議会(中医協)」の意見を基に、政府によって決められる。中医協は、医師ら「診療側」、労働者や企業などの「支払い側」、学者などの「公益側」の3つの立場の委員で構成されている。構造的には、診療側は費用を上げようとし、支払い側は費用を下げようとする。3者の調整で医療費がアメリカのように高騰せずに済んでいる。

 海外から評価されるもう一つは「支払基金」の存在だ。私たちが受診すると、医療機関は治療の費用や内容を記した「レセプト」を支払基金に出して、費用を請求する。支払基金は、この“請求書”を審査し、過大な請求がないか、チェックして支払う。出来高払いは、医療機関への支払い手続きが煩雑になるが、支払基金があることで、効率的に行われている。

 医師へ支払う額の決め方も、支払い方法も、実は、国によって異なる。日本では、治療費は、決められた単価を積み上げる「出来高払い」が基本。診療をきめ細かく評価でき、医師の治療意欲に応えられ、治療効果も上がるが、医療費が高くなりがちだ。

 フランスやドイツは原則、「診療側」と「支払い側」の協議であらかじめ支払総額を決める。多くの部分を民間保険者が決める米国のような国もある。

 日本のような出来高払いは、世界ではむしろ傍流。外来では総額の枠内で単価によって調整する「積み上げ方式」、入院では疾病ごとに決められた治療額を一括で払う方式を導入している国が多い。

 日本でも、入院では過剰診療の危険性を是正しようと、療養病床では「1日いくら」という一括払いが、大学病院や国立病院機構などでは、疾病ごとに入院の基本的部分の1日額を決める方式が導入されている。

 医師や病院に必要で十分な報酬が行きわたり、かつ効率的に病気を治す支払い方法にするにはどうするか−。

 日本はこれまで成功している方だが、最近の急性期病院の厳しい状況を見ると、さらに良い方法を考えていかなければならない。

(立教大学講師 磯部文雄)

(2007/10/11)