産経新聞社

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妊娠・出産のお金…賢く使う公的助成(中)

胎児の診断に欠かせない超音波検査を受ける妊婦=東京都多摩市の日本医科大学多摩永山病院


 ■健診の補助 充実化への取り組み

 健康保険が適用されないのは分娩(ぶんべん)・入院費だけではありません。母体や胎児の健康確保に欠かせない妊婦健診の費用も一部を除き、自己負担です。国は昨年、受診促進と若いカップルの負担軽減のため、2度にわたり、自治体に妊婦健診への補助を充実させるよう要請しました。財政難にあえぐ自治体も前向きに対応し始めています。(横内孝)

 「えっ、住んでいるまちによって、無料で受けられる妊婦健診の回数が違うなんて、知りませんでした。健診代は結構な出費ですから、助成が増えれば、その分を食費にでも回すことができます。早く増やしてほしいです」

 来月、第1子を出産予定の茨城県に住む遠藤葉子さん(29)=仮名=は残念そうに話した。

 妊婦健診とは、妊娠初期から出産前にかけて行う内診や超音波、血液などの定期検査。遠藤さんの住む自治体では公費助成、つまり無料で受けられるのは2回。しかし、同じ茨城県内でも、牛久の公費助成は3回、高萩、石岡、東海は5回に上る。

 妊婦健診は平成9年の母子健康法改正で、国が負担していた2回分の費用が10年度から地方交付税として一般財源化され、市区町村事業になった。

 茨城県内の各市町村は来年4月を目指し、妊婦健診5回分、計3万円を上限に公費負担する方向で調整を進めている。県の担当者は「全市町村の足並みがそろうか分からないが、努力をお願いしたい」と話す。

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 厚生労働省は妊婦健診について、(1)妊娠初期から23週は4週間に1回(2)24週から35週は2週間に1回(3)36週から分娩までは週1回の計14回、受診することが望ましい−とする。

 しかし、妊婦健診は1回あたり5000円から1万5000円。通算で10万円前後かかるといわれ、若いカップルには負担が大きい。「異常がないことを確認するためだけに、健診にお金を払う余裕はない」と、健診を受けずに出産を迎える未受診妊婦の増加が指摘されており、国は昨年1月と10月の2度にわたって、5回程度は公費負担とするよう、自治体に要望した。

 しかし、公費負担の拡大が、受診率向上や未受診妊婦の解消につながるかどうかには、懐疑的な意見が多い。杏林大学保健学部の太田ひろみ准教授は「健診をきちんと受診する人は、助成回数にかかわらず健診を受ける。妊娠に否定的だったり、問題を抱えた人が積極的に受診するようになるかは疑問」と話す。

 横浜市立大学院医学研究科の平原史樹教授も「未受診問題は、産科医不足に伴う分娩施設の減少、お産は安心という過信からくる甘え、学校給食費の未払いにも通じる親の養育意識の希薄化などが根底にある。受診率を上げる効果は限定的」と分析する。

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 市区町村の公費負担はまだ、ほとんどが妊娠前期と後期各1回という従来の形だが、ここ数年で、秋田、兵庫、和歌山など10県が相次いで公費を投入、助成拡大に乗り出している。

 厚生労働省が昨年8月時点で調査したところ、公費負担となる妊婦健診は全国47都道府県平均で2・8回。前回の16年度調査を0・7ポイント上回ったが、2回以上3回未満が30自治体と最多で、国が求める「5回」を達成した自治体は4県に過ぎなかった。最多は県も補助する秋田県の10回、最少は大阪府の1・3回だった=表。

 国は今年度、受診促進と負担軽減のため、地方交付税を増額したが、東北のある自治体の財政担当者は「健診費の名目なら、増額された実感がわくが、交付税はただでさえ全体が減らされている。少子化対策の重要性は痛感しているが、厳しい財政事情の中で、そうやすやすとは拡大に踏み切れない」ともらす。

 日本産婦人科医会は市町村に、5回を順守した上で、市町村間の格差が生じないよう求めている。厚労省の調査で「来年度以降、公費負担の回数を増やす方向で検討中」とした市町村は59%を占めており、同会の可世木(かせき)成明常務理事は「来年4月には、5回の助成を実施する市区町村が半数に達するだろう」と予測する。

 しかし、5回を達成しても、まだ半分以上が自己負担。厚生労働省は5回の公費負担を“通過点”ととらえ、さらに拡充を求める姿勢。自治体の取り組みが広がるか、注目される。

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 ≪妊婦健康診査の公費負担状況≫

都道府県名 現行平均回数 都道府県名 現行平均回数

北海道    2・3   滋賀県   3・7

青森県    2・8   京都府   2・2

岩手県    2・6   大阪府   1・3

宮城県    2・4   兵庫県   1・4

秋田県   10・0   奈良県   1・6

山形県    2・2   和歌山県  2・0

福島県    5・8   鳥取県   2・5

茨城県    2・0   島根県   3・5

栃木県    4・0   岡山県   2・7

群馬県    2・3   広島県   3・3

埼玉県    2・0   山口県   2・7

千葉県    2・1   徳島県   2・3

東京都    2・1   香川県   3・9

神奈川県   2・2   愛媛県   2・0

新潟県    4・0   高知県   2・7

富山県    4・3   福岡県   2・0

石川県    5・0   佐賀県   2・3

福井県    4・9   長崎県   2・5

山梨県    5・0   熊本県   2・2

長野県    2・7   大分県   2・1

岐阜県    3・2   宮崎県   2・8

静岡県    2・4   鹿児島県  2・3

愛知県    4・2   沖縄県   2・3

三重県    2・0   合 計   2・8

(厚生労働省調べ 平成19年8月現在)

(2008/01/15)