産経新聞社

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妊娠・出産のお金…賢く使う公的助成(下)助産制度

 ■自治体で異なる負担額

 赤ちゃんができても、心から喜べない−。経済的な理由から、先行きに不安を抱き、出産をためらう女性もいるようです。出産費用を支払うことが困難な場合、児童福祉法に基づく「助産制度」を利用できます。ひとりで悩まず、最寄りの福祉事務所などに相談してください。(横内孝)

 「(日常の)生活は成り立っていても、預貯金がないのでまとまったお金がなく、出産費用に困っている人がほとんどです」

 東京都足立区の東部福祉事務所で相談員を務める林智美さんは助産制度の利用者をこう表現する。

 助産制度は、無料もしくは安い費用で分娩(ぶんべん)できる制度。自治体によっては、出産費用だけでなく、妊婦健診の費用を助成する。

 対象は、生活保護世帯や住民税の非課税世帯など。最寄りの福祉事務所に相談し、審査を受けるが、配偶者の有無や婚姻関係、国籍などは問われず、指定された病院・助産所で出産する。

 自己負担は、生活保護世帯は無料。住民税の非課税世帯の場合、国の基準では2200円と出産育児一時金の20%(計7万2200円)を、自治体に支払う。ただ、自己負担額が異なる自治体もあり、たとえば、東京都では「家計に与える影響などを考慮」し、自己負担額を出産育児一時金の10%(3万5000円)にとどめている。

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 厚生労働省によると、平成18年度に助産制度を利用した人は全国で6551人。利用者が最多なのは大阪府で、昨年度は2312人。全利用者の3分の1に達する。

 助産施設の指定を受ける阪南中央病院(大阪府松原市)。17年までの5年間に扱った分娩のうち、約12%にあたる330人が同制度の利用者だった。

 同病院の実態調査によると、助産制度の利用者は妊婦健診の受診が遅れがちだったり、未受診だったりするケースが多い。未入籍者や離婚経験者、中絶歴のある人の割合も高いという。片山美穂医師は「制度の利用者は低所得で、出産後に育児をする環境の不安定さも懸念される。多角的な子育て支援施策が必要」と訴える。

 東京都で最も利用者が多いのは足立区。18年度は121人で、都全体(848人)の14%を占める。3人に2人は住民税の非課税世帯。最近は10代や20代前半の若年層や外国人留学生などの利用が増える傾向にあるという。

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 助産制度の利用者は9年間で2倍強に増え、過去最高。関西のある自治体の担当者は「外国人の増加や若年層を中心としたフリーターなど非正規労働者の増加などが影響している」とみる。

 利用者増で制度の問題点も無視できなくなっている。ひとつが利用者負担金の未払い。助産制度の費用は原則、利用者負担を除き、基準額の範囲内で国が2分の1、都道府県と市区町村が各4分の1を負担する。ところが、ある自治体の担当者は「利用料の収納率は3割程度にとどまります。住民税非課税世帯には、出産育児一時金(35万円)が支払われるわけですから、本来、そこから利用料を負担していただくのが筋。しかし、それを、生活費に回してしまう人が少なくない」とぼやく。自治体には、利用者負担の肩代わり分が重くのしかかる。

 医療機関側が抱えるのも費用負担の悩みだ。実際の出産費用が助成基準額を上回っても、その分は施設側の負担。穴埋めのため、助成を上乗せする自治体もあるが、ある医療関係者は「それでも、約6割の助産施設で1分娩あたり、平均9万円近い損金が発生している」と指摘する。

 助産施設は9年度には全国で563を数えたが、18年度には500に減少。分娩を扱う医療機関の2割に満たない。産科医不足による分娩休止が主な理由だが、医療費の“持ち出し”が経営を圧迫するとして休止を申し出る事例もあるとされる。

 連合が17年に実施した妊娠・出産費用に関するインターネット調査で、妊婦健診と出産費用の負担感を尋ねたところ、「やや負担」「とても負担が重い」が全体の86%を占めた。17年度の厚生労働白書によると、過去10年間、子育て期にある世代の世帯実質所得は伸びていない。医療水準が上がり、出産関連費用は増加傾向。負担感は大きくなるばかりだ。

 城西大学経営学部の伊関友伸准教授(行政学)は「各地で進む産科医療の崩壊に歯止めをかけるためにも、少なくとも妊婦健診の費用は全額、出産費も一定水準は国で負担する必要がある」と指摘している。

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【用語解説】助産施設

 助産制度を利用する人は、指定されている助産施設で出産する。病院と助産所がある。助産施設が最も多いのは大阪府(59)、東京都(50)、神奈川県(37)など。岩手、茨城、群馬、広島の4県には施設がない。地方の助産施設は公立・公的病院であることが多い。

(2008/01/16)