産経新聞社

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普及への処方箋 ジェネリック利用の環境整備(上)



 □様式を再改訂

 ■患者の「勇気」に頼らず調剤

 先発医薬品とほぼ同じ成分と薬効を持つ後発医薬品(ジェネリック医薬品)。最近ではテレビCMなどで認知度も進み、使いたいと考える患者も増えてきました。ただ、海外と比べると、普及の度合いは今一つ。厚生労働省は新年度から、処方箋(せん)様式の改訂をさらに進め、普及を後押ししようとしています。(佐久間修志)

 「患者さんの薬をジェネリックにするのは、まだまだ大変」

 神奈川県相模原市で調剤薬局を経営する薬剤師の小川護さん(49)は、そう感じたことがある。

 昨年2月、高齢の女性患者が「脳の薬を、ジェネリックにしたいんですが…」と相談してきた。女性は通院先が閉院。この月から新しい病院で受診したが、「以前の病院ではジェネリックだったのに、新しい病院では先発薬が処方された」という。

 現在、院外処方の薬をジェネリックにする場合、医師が処方箋に(1)ジェネリックの特定銘柄を記載する(2)先発薬の銘柄を記載するが、(ジェネリックに)変更可の欄に署名をする(3)薬の成分名(一般名)を記載する−の3通りがある。女性の処方箋は先発薬名が記載され、「変更可」の欄に署名はなかった。

 小川さんは「医師に事情を話してお願いしては」とアドバイスしたが、1カ月後、再び薬局を訪れた女性の処方箋は、前回と同じ記載。小川さんが理由を訪ねると、女性は「先生を前にすると、どうしても言えなくて…」という。

 結局、小川さんから主治医に事情を伝え、女性は翌月からジェネリックを処方してもらうことができた。小川さんは「話せば最初からジェネリックを処方してもらえたと思います。ただ、患者さんにとっては、やはり話すまでが一大決心なんでしょう」と振り返る。

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 「勇気をだして、聞いてみよう」

 大手ジェネリック製薬会社のCMのフレーズにあったように、患者がジェネリックの処方を受けるには、多くの場合、医師に薬をジェネリックに変更してもらえるかを聞く“勇気”が必要だ。

 以前は医師がジェネリックを処方する場合、なじみの薄いジェネリックの商品名や成分名を、処方箋に書く必要があった。しかし、平成18年、これが普及の妨げになっているとの意見から様式が改訂された。医師の署名があれば、先発薬名が書かれた処方箋でも、薬局でジェネリックに切り替えられるようになった。

 ところが、改訂後も普及は伸び悩んだ。

 厚労省が昨夏行った調査によると、全国の保険薬局の薬剤師が受け取った処方箋のうち、「変更可」に署名があったのは17・4%。さらに、実際に薬局でジェネリックが処方されたのは1・4%だった。

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 こうした事情を受け、厚労省は新年度から、処方箋の様式を再度改訂。ジェネリックに変更してもよい場合に医師が署名する従来の様式から、「変更不可」の場合に、医師が署名する様式に改める。

 厚労省の医師に対する調査では、ジェネリックを「積極的に処方したい」と答えた医師は11%にとどまったが、「基本的に処方しない」と答えた医師も約18%足らず。「特にこだわりはない」という医師が大半の7割だった。

 同省保険局医療課は「医師に特にこだわりがないなら、『変更不可』にチェックはされない。そうすれば、患者は医師よりも話しやすい薬剤師に『薬をジェネリックにしたい』と言えばよく、ジェネリックの利用促進につながる」と改訂の趣旨を説明する。

 ジェネリックの普及などを推進する「日本ジェネリック医薬品学会」理事長で、国際医療福祉大学三田病院の武藤正樹副院長は「これまでの処方箋では、ジェネリックに変更しないことが“標準”だった。今後は欧米のように、替えることが“標準”になる」と普及効果に期待する。

 ただ、今回の改訂は調剤薬局で薬が処方される「院外処方」の場合にのみ効果があるという不十分さは残る。病院や診療所で薬を出す「院内処方」では、引き続き医師に「ジェネリックにしてほしい」と話すことが必要だ。

 武藤副院長は「院内でジェネリックの処方を進めるのは、まだ時間がかかる。院内でジェネリックの取り扱いがなければ、院外処方箋を出してもらうよう、医師に要望することもできる」とアドバイスしている。

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【用語解説】後発医薬品(ジェネリック医薬品)

 新薬と呼ばれる先発医薬品は、製薬会社が巨額の研究費を投じて開発し、開発後20〜25年は特許で守られ、開発会社だけが製造できる。特許が切れた後に製造された薬が後発医薬品。主成分は先発薬と同じだが、開発費用がかからないため、先発薬よりも価格が2〜7割ほど安い。

(2008/02/04)