産経新聞社

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普及への処方箋 ジェネリック利用の環境整備(中) 

ジェネリックを多く取り扱う瑠璃薬局西新店。周囲に病院・薬局がひしめく中、需要は絶えないという=福岡市早良区


 □照会を一部省略 

 ■薬剤師の責任・職能問う

 後発医薬品(ジェネリック医薬品)が普及しない理由として、薬剤師からは「必要な場合に、医師に問い合わせをしても、スムーズに運ばないことがある」との声が上がっていました。春からは解決策として、問い合わせの一部が省略されます。同時に、ジェネリックの取り扱いで薬剤師の仕事が煩雑になるのは確実。普及には薬剤師の意識改革も求められます。(佐久間修志)

 東京都内の調剤薬局に勤める薬剤師、一瀬祐司さん(38)=仮名=は昨夏、患者から「薬をジェネリックにしたいんですが…」と相談を受けた。

 処方箋(せん)の「(ジェネリックに)変更可」の欄に医師の署名はなかった。しかし、単に署名しなかっただけの可能性もある。一瀬さんは主治医に患者の要望を電話で伝えた。

 薬剤師が処方箋についての疑問を医師に問い合わせることを「疑義照会」と呼ぶ。ところが、電話を受けた患者の主治医は「そんなこと言うな」と厳しくつっぱねた。

 一瀬さんは患者に「直接、あなたが主治医に言った方がいいようです」と告げたが、しばらくして今度は主治医から「患者に余計なこと言わせるな」と苦情を受けた。

 「こちらは患者さんの要望を伝えただけ。今後も必要に応じて問い合わせる」と一瀬さんは冷静だ。だが、「医師が薬剤師の話に耳を傾けてくれる割合は半々です」とももらす。

 「ただでさえ忙しい医師への問い合わせは、気が引けるという薬剤師もいます。患者さんがジェネリックを望んでも、結果的に調剤されないというケースも少なからずあるのでは」

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 厚生労働省は新年度からジェネリック処方に大きくかじを取る。一つは昨日この欄で紹介した処方箋の様式改訂。もう一つは「(ジェネリックに)変更不可」欄に署名がない処方箋については、薬剤師が「疑義照会」をしなくても、ジェネリックを調剤できることとした。もちろん、患者への説明・同意は前提だ。

 同省保険局医療課は「疑義照会をしても、医師と話せるかどうか分からない。患者を待たせるくらいなら、先発薬を出す状況は常識的に考えられた」と改定の背景を話す。

 冒頭のようなケースの解消になるだけでなく、薬剤師は「ジェネリックを別名柄のジェネリックに変更する場合に特に有効」と話す。一つの先発薬に対応する複数種のジェネリックを一薬局で置くのはコスト面から難しい。しかし、現制度では、処方箋にはじめからジェネリックの商品名が書かれていても、薬局に在庫がなく、銘柄変更するためにも疑義照会が必要だった。

 改正で薬局の在庫負担軽減と疑義照会の省略という二重の効果が見込まれる。

 例外は、ジェネリックから先発薬への変更。この場合は今まで同様、疑義照会が必要。「改正の目的は、患者さんの経済的負担を軽くするジェネリックを、できる範囲で使うこと。先発品に変更するのは、その趣旨から外れる」(医療課)というのが理由だ。

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 日本薬剤師会の山本信夫副会長は「改正は薬の専門家である薬剤師の職能を生かせる」と評価する。一方で「なぜその薬を選択するのか、疑義照会に代わり、薬剤師が患者さんに説明することが前提」と、責任の大きさも強調する。

 薬剤師には、処方箋を書いた医師への情報提供、在庫の追加などの負担も加わる。このため、「改正に消極的な薬剤師もいる」と関係者は口をそろえる。

 だが、「ジェネリック普及の流れに乗れない薬剤師は不要になる。適応できなければ淘汰(とうた)されるしかない」と山本副会長は手厳しい。

 ジェネリック普及の流れを薬局の強みにしようという動きもある。

 福岡県内に3店舗を展開する瑠璃(るり)薬局は平成18年、福岡市の西新店にジェネリック医薬品について、患者の相談を受ける「ジェネリックセンター」を設立した。国道沿いにある建物の壁はピンク。「ジェネリック」の大きな文字が目立つ。

 取りそろえるジェネリックは250品目。日本ジェネリック医薬品学会が「積極的な取り組み」を認定する「推奨マーク」の取得店舗でもある。

 同店は総合病院が隣接し、裏手には数十の個人病院と薬局がひしめく医薬の激戦地域。原口恵子社長は「場所柄、ジェネリックを利用したいという患者のニーズに即時に対応できることを強みにしたかった」と話す。

 今では、受けとる処方箋の3割以上が「変更可」に署名がある。店舗に面した国道を通る患者が同店に目をつけ、車で30分以上かけて訪れることもあるという。

 「ジェネリックに対し、以前のような粗悪なイメージは今はない」という原口社長。「ようやく薬に患者さんの意思が反映できるようになった。それに薬剤師が応えられなければ、薬剤師としての意味がない。そういう思いが強いです」

(2008/02/05)