産経新聞社

ゆうゆうLife

普及への処方箋 ジェネリック利用の環境整備(下)

患者に対するマナー向上で、薬剤師の信頼性を高める取り組みを行う日本調剤の薬局=東京・目黒


 □分割調剤を拡大

 ■「おためし」で不安払拭

 「後発医薬品(ジェネリック医薬品)は安いけれど、品質に不安がある」という医師や患者の話をよく耳にします。かつて「ゾロ薬」(新薬の特許が切れるとゾロゾロ売り出されるため)と揶揄(やゆ)されたジェネリックへの不信感は根強く、普及には、こうした医師や患者の不安を取り除くことが不可欠です。(佐久間修志)

 千葉県松戸市の薬剤師、渡辺隆さん(43)は昨夏、ドライアイで眼科を受診した30歳代の女性患者に目薬を10本(1カ月分)調剤した。処方箋(せん)には「(ジェネリックに)変更可」の署名があったため、渡辺さんは女性にジェネリックへの変更を勧めた。

 この女性の場合、目薬をジェネリックにすると患者負担分が約600円安くなる。女性は関心を示したが、全部をジェネリックにするのに不安があり、「2、3本だけジェネリックに変更できないんですか」と尋ねたという。

 渡辺さんは「一部だけをジェネリックには替えるのは難しい」と女性に説明。女性はジェネリックへの変更をあきらめたという。

 「薬代を削減できるジェネリックのメリットは大きい。だから、患者さんが気軽に試せるようになれれば」。渡辺さんは歯がゆさを口にする。

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 厚生労働省の調査によると、「基本的にはジェネリックを処方しない」という医師のうち約85%が「品質への疑問」を理由(複数回答)に挙げる。

 ジェネリックは安全性や品質が先発薬と同等と見なされた製品が承認される。ただ、主成分以外の添加物や製法が先発薬と違う部分もあるため、医師や患者が効果や副作用の有無に不安を持ち、先発薬からの切り替えが進まないのが現状だ。

 1回の医師の処方で、薬を複数回に分けて調剤する「分割調剤」という手法もある。しかし、現在、分割調剤で薬局に保険点数がつくのは「薬の保存性が悪く、一度に多くを調剤できない場合」などに限られている。ジェネリックへの変更目的では認められていない。

 厚労省は新年度から、分割調剤が保険点数で評価されるケースを拡大。「患者の同意を得て、短期間、後発医薬品を試せる」場合を盛り込んだ。これによって、ジェネリックは「おためし調剤」が可能になる。

 実際に服用することが不安の払拭(ふっしょく)につながったという声は多い。

 東京都内の平尾一さん(66)=仮名=は、糖尿病で昨年2月からジェネリックを服用している。主治医からは「完全には信用できないよ」と言われたが、経済的なメリットを優先した。

 「飲み始めのころは、めまいなどもあって、副作用かとびくびくした」という平尾さん。それでも飲み続けて約1年が経過。「今はジェネリックに不安はありません。薬代も先発薬よりかなり抑えられていると思います」と話す。

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 仙台逓信病院(仙台市)は平成12年から、先発薬約100品目を積極的にジェネリックに切り替えた。15年からは東北大学と連携し、カルテ調査によるジェネリックの臨床的評価を実施している。

 同病院の高橋将喜薬剤部長は「ジェネリックが普及するには、臨床データが必要。そのデータ作成はジェネリックを利用している医療機関の使命だ」と話す。

 これまでに、ジェネリックへ替える経済効果が高い高脂血症治療薬や高血圧治療薬など11品目を評価。現在までのところ、全品目で薬としての有効性や安全性に、先発薬との差異はなかったという。

 「ジェネリックと先発薬は薬学的には同一ではない。だが、臨床的に差異がないなら、患者にとって有益な薬といえる」と高橋部長。薬代が安いため、患者がけちらずに飲む回数を守るなどの効果もあったという。

 また、「薬剤師への信頼向上への取り組みが、結果的にジェネリックの不安除去にもつながっている」と胸を張るのが、調剤薬局大手、日本調剤(東京都)。同社は顧客満足度を上げるため、定期的に薬剤師にマナー研修を行う。

 研修では、患者応対のロールプレーや身だしなみ指導が組み込まれ、薬剤師は患者への接し方に磨きをかける。

 「薬をジェネリックに替えることへの不安の正体は、ジェネリックへの不安と併せて、薬剤師への不安です」と話すのは同社山手薬局(東京・目黒)の薬剤師、岡田憲人さん(38)。同薬局で扱う処方箋は「(ジェネリックに)変更可」の署名がある割合が、全体の約4割以上と高い。

 「車を信頼できるセールスマンから買うのと同じ。薬剤師が患者から信頼されれば、ひいてはジェネリックの信頼性向上にもつながるんです」

(2008/02/06)