産経新聞社

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保険料の納付−手軽に漏れなく(下)


 ■国保料年金から天引き 

 ■自治体により足並み乱れ

 この春から、65歳以上の人では、医療保険の保険料が年金から天引きになる人が多くなります。75歳以上を対象にした「後期高齢者医療制度」のスタートが大きな理由ですが、65歳以上75歳未満の「前期高齢者」の国民健康保険料(税)も原則、年金から天引きになります。ところが、65〜74歳の国保料については、ほとんどの自治体で4月に年金からの天引きができない見通し。足並みの乱れを調べました。(横内孝)

 東京23区では、前期高齢者の国保料を年金から天引きする「特別徴収」が始められるのは中野区のみ。3月上旬、国保加入世帯の2割強に当たる1909世帯に通知を送った。住民の反応はさまざまだ。

 「国保料は高いと思うが、支払うべきもので、天引きは当然のこと」

 こう淡々と話す70歳の男性は65歳の妻と2人暮らし。今までは役所の窓口で納めていた。それが4月15日支給の年金から、2カ月分に相当する国保料が天引きされる。

 一方で、同じ中野区に住む70歳のひとり暮らしの男性はこれまで、銀行やコンビニなどで国保料を支払っていた。「確かにラクになるが、天引きというのは、信用されていないみたいで、あまり気持ちのいいものではない」

 4月実施のはずが、自治体によって実施に遅れが生じたことで、住民には混乱もある。横浜市に住む68歳の男性は2月下旬、知人から天引きの話を聞き、「これで煩わしさから解放される」とほっとした。保険料は従来、年6〜10回、口座振り替えや、市町村や銀行、コンビニなどの窓口に出向いて支払うのが一般的。横浜市の納付回数は年10回で、「いちいち窓口に出向いたり、忘れないように気を配ったりするのは結構きつかった」と男性。

 ところが数日後、市の広報誌を見て驚いた。市が4月実施を見送り、21年度以降に実施予定だと記載されていたからだ。理由はシステム改修の遅れだという。「自治体によって違うなんて…。楽になると思っていたのに、がっかりしました」

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 国保料(税)が特別徴収の対象となるのは、世帯内の国民健康保険の被保険者全員が65歳以上75歳未満の世帯の世帯主で、年額18万円以上の年金を受給し、介護保険料と国保の保険料(税)の合計額が年金の2分の1を超えない人。合計額が半分を超える場合は、介護保険料の天引きを優先し、国保料(税)は普通徴収となる。

 厚生労働省の試算によると、国保料(税)の年金天引き対象者は300万〜350万人で、65歳以上75歳未満の半数とされる。

 国は本来、今年4月スタートを目指してきた。しかし、市町村から「システム開発が間に合わない」との声を受け、昨年3月、最長2年の実施猶予などを認めた。4月は「後期高齢者医療制度」のスタートもある。その準備に追われる市町村は、国の見解を“干天の慈雨”ととらえ、前期高齢者の特別徴収を先送りにしたところが多い。

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 産経新聞の調べによると、全国約1800保険者(市町村、4月時点)のうち、後期高齢者については、4月からの特別徴収を実施できないのは31市区町村。しかし、前期高齢者については、3分の2にあたる市区町村が実施できない見通しだ。

 前期高齢者の国保料では、特別徴収を免除される自治体もある。(1)被保険者数が1100人以下(2)収納率が高い(3)口座振り替えおよび納付組織の実施率が高い−などで71市町村。これを除くと、全体の6割強が10月以降の実施。横浜市など61市町村は、大規模なシステム改修を行うことなどを理由に、21年度以降実施予定。神奈川、富山、石川、福井、滋賀の5県では、4月実施の市町村はゼロだ。

 そもそも、特別徴収は保険料の納付率アップが狙い。実施を見送った都内のある区は「滞納が生じる恐れはある」と頭を痛める。しかし、自治体によっては「もともと、この世代は納付意識が高い。実施の遅れで滞納が出る恐れは少ない。むしろ、時間にゆとりが出て、理解を得やすい」との声もある。

 厚生労働省は「実施は原則4月ですが、市町村のシステム整備の状況に応じて、スタートについては判断を委ねた」と静観の構え。所得税や介護保険料では、年金からの天引きが導入済みだが、新制度だけに十分な周知が必要。政府と国民健康保険中央会は今月中旬、全戸に広報紙を配布し、「特別徴収を4月から導入しない市区町村もあるので、詳しくはお住まいの市区町村に照会を」と呼びかけている。

(2008/03/26)