産経新聞社

ゆうゆうLife

地域で守る救急搬送(中)

「すべての救急要請を受け入れる」という湘南鎌倉総合病院の救急総合診療科


 □患者の“交通整理”

 ■専門医へのルート必要

 増える救急搬送。しかし、中には緊急性の薄い患者の119番通報もあるようです。自治体の中には、本当に救急搬送の必要な患者のために、患者を“交通整理”するところもあります。さらに、病院の受け入れ拒否をなくすには、患者を専門医につなげるルートが確保されていることが必要。病院間、自治体同士の連携の動きも出てきました。(北村理)

 JR川崎駅に近い川崎市医師会館の一室にある「市救急医療情報センター」。日中は医師会職員2、3人、夜間は消防OBの職員2人が対応する。

 「事故ですか? 足を負傷、頭も痛い? 最寄りの病院を聞いてみます」

 「最寄りの病院にあたったところ、大きな病院の方がよいということなので、別病院をあたります」

 「○○病院が受け入れるといっています。××駅からすぐですので、そちらにおいでください」

 365日24時間、市民からの相談を受け、1日平均180件、祝日や年末年始は500件に対応する。運営費約6000万円を市が負担している。比較的、緊急性の低い患者が対象で、原則、医療機関が見つかるまで対応する。

 スタートは昭和57年。同年に8368件だった相談件数は、平成18年度には6万5013件。今や、18年の救急の搬送患者、5万2868人を上回るほど、市民に周知されている。

 さらに、川崎市では病院間で患者を転送する場合に、なるべく救急車を利用しないようにとのルールを作ったり、夜間は市内2カ所の小児救急センターを紹介している。

 自分で病院に行ける患者が行き先のあてがないために救急車を呼んでしまったり、夜間、子供の熱に驚いた親が、搬送先が分からないまま救急車を呼んでしまうケースをなくそうというわけだ。「救急搬送を減らす代替措置はある。それを、行政と医師会が一体となって工夫している」(川崎市)

 この結果、救急の出動件数は18年以降、年々下がっている。

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 川崎市の場合、混雑する救急搬送を“交通整理”することで一定の成果をあげた。しかし、その川崎市も搬送拒否がないわけではない。搬送拒否をなくすには、さらに、患者を専門医につなげる「道」を確保することが必要だ。

 神奈川県鎌倉市の湘南鎌倉総合病院は「救急要請をすべて受け入れる」という。救急搬送は1日平均27件。時には、埼玉県から搬送されてきたり、大腿(だいたい)部骨折後の失神で42の病院に搬送を拒否された女性が送られてきたこともあった。

 同病院の救急総合診療科の太田凡部長はかつて、別病院の救急救命センターに勤務していたが、「うまく断れ」と指示する病院の方針に疑問をもっていたという。

 ただ、救急の現場が受け入れを躊躇(ちゅうちょ)する理由の一つは、救急部門が患者を専門医にバトンタッチしようとしても、断られることがあるためだ。

 救急部門の医師に必要な資質は「多数の救急患者がいても、優先順位を決めて救急診療をし、必要に応じて各科専門医に引き継ぐ力量」(太田医師)だという。

 しかし、「各病院の救命救急センターが、母体となる病院の十分なバックアップを得ているとはかぎらない。専門医の中には、救急部門で受け入れた患者にかかわることを嫌がる医師も少なくない」と、太田医師は指摘する。

 同病院では、こうした障害をなくす方針で、専門医も24時間体制で待機させる。

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 専門医へのアクセスを面で確保しようという動きもある。石原哲・東京都医師会救急委員会委員長は「搬送拒否をなくすため、病院間のルールづくりが必要だ」という。

 今後、都内をブロック分けして、コーディネーター役の医師を配置。病院同士で当直医の体制を共有し、コーディネーター医が、各病院の当直医の得意分野に応じて、患者の受け入れ先を決めることを検討する方針という。

 神奈川県も同様の案を検討している。冒頭の川崎市のほか、横浜市や相模原市にも住民対象の救急相談センターはある。センター同士が当直医の状況を共有し、市内で受け入れが難しい患者でも、市外で受け入れようというものだ。

 先月公表された総務省消防庁の調査では、東京や神奈川など首都圏の自治体は、搬送受け入れを10回以上断られた事例数が全国トップ10に名を連ねる。地域ぐるみの方策を探ることで、事態の改善に動きだしている。

(2008/04/02)