産経新聞社

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75歳!どうなる私の保険料(1)


 ■国保からの移行・元農業従事者

 □「資産割額」なくなる

 75歳以上を対象にした後期高齢者医療制度(通称・長寿医療制度)が始まって、まもなく1カ月。2年前に決まった制度ですが、今月15日に年金からの保険料天引きが行われ、改めて混乱が広がっています。被保険者の関心は、なんといっても保険料。世帯や居住地によって、保険料がどう変わるか、調べてみました。(横内孝)

 山梨県の名取道子さん(77)=仮名=は長野県境に近い小都市でひとり暮らし。3月下旬、市役所から届いた「後期高齢者医療被保険者証」を見て、新制度のことを初めて知ったという。市は今年になって広報誌で特集を組んだり、住民説明会を開くなどしていたが、この時期、名取さんは東京都内の長女の元に身を寄せていたからだ。

 手にした真新しい保険証は、それまで加入していた国民健康保険(国保)と同じ横長のカードタイプ。違和感はなかったが、文字はいくぶん小さく、見にくくなった。

 「保険料はいくらになるのか」。気がかりだったが、4月上旬、今度は市と社会保険庁から相次いで「後期高齢者医療保険料仮徴収額決定通知書」「年金振込通知書」が送られてきた。4月15日支給の年金から、2カ月分の保険料1900円を天引きするという内容。前年所得で計算した額が出るまでの仮徴収額では、保険料は年間1万1613円という。

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 名取さんは「保険料が上がったのか、下がったのか、すぐには分からなかった」というが、書類を確認して驚いた。19年度に納めた国民健康保険の保険税(料)は2万9200円。「えらく安くなったなあ。安いなら、なんぼ安くてもいいさ」と喜ぶ。

 名取さんの生活は国民年金が頼り。年額約51万円だが、介護保険料が天引きされ、手取り額は月に4万円ほどという。夫が健在だったころはブドウ園を営み、一定の収入があったが、今はたたんでいる。持ち家だから、家賃はいらないが、年金だけでは足りない。若いころの蓄えを切り崩す生活だ。「年を取っているし、これから何か仕事ができるわけではない。たとえ1円でも、10円でも年金から引かれるのは正直しんどい」ともらす。

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 後期高齢者医療制度の保険料の計算方法は、全国同じ。被保険者一人一人に一定額がかかる「均等割額」と、前年の所得にかかる「所得割額」を合計する。ただ、都道府県ごとの医療費の多寡によって、設定される額や率が異なる。

 これに対し、国民健康保険の保険料(税)は、住んでいる市区町村によって、計算方法が異なる。山梨県では、甲府市を除く27市町村は同じ計算方法で、(1)ひとり頭にかかる「均等割額」(2)世帯ごとにかかる「平等割額」(3)所得に応じてかかる「所得割額」(4)山林や田畑、土地などにかかる「資産割額」を合計する。最も多くの自治体が採用している計算方法だ。

 後期高齢者医療保険に移った名取さんの負担は、年額2万9200円から1万1610円と半分以下になる見通し。どうしてこんなに負担が下がったのだろうか。

 市の担当者は「名取さんは一定の資産があるため、国保では資産割額がかかっていたが、新制度ではかからないことが大きいのではないか」と説明する。

 名取さんは持ち家のほかに、以前手がけていたブドウ園などの土地がある。このため、国保では、資産割額だけで1万2730円が賦課されていた。しかし、所得は少ないため、国保の「均等割額」と「平等割額」は7割軽減されていた。

 新制度でも、所得によって保険料の一部を7割、5割、2割減額する負担軽減策がある。名取さんはこの対象で、「均等割額」が7割軽減された。

 県内の保険料を設定する山梨県後期高齢者医療広域連合によると、昨年8月の試算では、名取さんのように保険料の均等割額が7割軽減される被保険者は県内で約4割に達する。

 厚生労働省は、国保と新制度とで平均保険料を比較すると、年金収入にかかわらず、単身世帯の負担は軽くなるとの試算を示している。

 名取さんは「年金以外に収入がない身としては保険料はこれ以上、上がっちゃ困る」という。心配はむしろ、今後の窓口負担のようだ。名取さんは右ひざの痛みや高血圧を抱え、月1、2回、近所の整形外科や内科を受診する。注射や5種類の薬代など込みで、窓口負担は1回あたり2000円ほど。「今は1割だからいいけれど、2割、3割になるのではないかと、不安で不安で眠れない」と先行きを案じている。

(2008/04/28)