産経新聞社

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75歳!どうなる私の保険料(2)


 ■国保、新制度に分かれた夫婦

 □減額、適用されず負担増

 4月から始まった後期高齢者医療制度(長寿医療制度)。被保険者(加入者)の約8割は国民健康保険(国保)から移った人で、その数はざっと1040万人。なかには年齢差のせいで、夫が新制度、妻が国保に残る世帯もあります。こうした世帯の負担はどうなるのでしょうか。移行による負担額の違いを検証します。(横内孝)

 「多少は上がると覚悟していたが、なんでそんなに上がるのか」

 埼玉県で3歳年下の妻、清美さん(72)=仮名=と暮らす新井義隆さん(75)=仮名=は4月上旬、市役所で後期高齢者医療保険料の試算額を聞いて驚いた。3月下旬に新しい保険証が送られてきたが、肝心の保険料額を知らせる通知書はいつまで待っても来なかった。

 市に問い合わせると、担当者から「周知不足や準備の遅れなどで混乱する恐れがあるので、(年金からの)天引きは10月から。確定保険料は7月に通知しますので、7、8、9月は納付書で確定額を納めていただきます」と言われた。

 義隆さんが「3カ月も待てない」と、試算額を聞いたところ、年間保険料は9万7600円ほど。前年、義隆さんが納めた妻とふたり分の国民健康保険税は約9万3000円。今年度からは義隆さんひとりで10万円近い。国保に残る妻の国保税は2万1000円で、世帯の負担額は12万円近くに跳ね上がる。

 15年前、胃の手術を受けた義隆さんだが、健康には自信があり、今は病院とは無縁。妻は歯科や眼科を受診するが、世帯の医療費負担は少ない方だと自負している。

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 新井さん夫婦の生活は年金が唯一の支え。義隆さんは年額約222万円の厚生年金、妻は年額79万円の国民年金を受給している。

 「保険料を負担するのは当然のこと」と受け止める義隆さんだが、保険料の額には「どうしても納得がいかなかった」。

 この額は本当に正しいのかといぶかる義隆さんは2、3日後、隣接する2市の役所を訪れ、同じ質問をした。県内の自治体は原則、どこも同じ保険料額になるはずだからだ。しかし、結果は同じだった。

 「窓口負担は1割だし、収入は多い方ではない。後期高齢者医療制度では、保険料の軽減措置があると聞いていたが、それも受けられない」と憤った義隆さんだが、今ではすっかりあきらめの境地という。「保険料は2年ごとに見直すと言われているが、下がるとは到底思えない。これまでぜいたくもせず暮らしてきた。夫婦や兄弟で行く年3回の旅行が楽しみだった、今後は回数を減らさなければならないかも…」と顔を曇らせる。

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 後期高齢者医療制度の保険料は、個人単位で計算される。夫婦とも同制度になった場合も、保険料はひとり頭にかかる「均等割額」と、前年所得から「所得割額」をそれぞれ算出する。ところが、軽減制度が受けられるか否かの判断は、国保同様に世帯単位。被保険者(加入者)と世帯主の合計所得を基に行う。

 市の担当者も「厚労省は『保険料は被保険者一人一人』と言っておきながら、保険料の減額では世帯の考えを残している。住民でなくても、分かりにくい」とぼやく。

 義隆さんが指摘するように、新制度には、保険料の均等割額の最大7割が減額される措置がある。収入が年金のみの場合、203万円以下であれば、均等割額が2割軽減される。しかし、義隆さんの収入は、この基準より20万円ほど多く、対象から外れたのだ。

 清美さんの国保税はどうか。この市では、昨日紹介した名取さんの市と同様、国保税は「均等割額」「平等割額」「所得割額」「資産割額」を合計する。所得が低い場合、「均等割額」と「平等割額」は6割ないしは4割軽減される。

 ところが、被保険者である清美さんの年金は少ないが、減額されるかどうかの判定では、世帯主の義隆さんの年金が加算される。この結果、清美さんは軽減判定の基準を超え、対象外となった。

 清美さんに適用されたのは、新制度発足にあたって、激変緩和措置として、国保に設けられた別の制度。国保と新制度に分かれてしまう夫婦などを想定して設けられたもので、国保の被保険者(加入者)が1人となる場合、世帯単位でかかる「平等割額」が半額になる。結果、清美さんの国保税は2万1000円と試算された。

 後期高齢者医療制度のスタートで、さまざまな保険料軽減措置が導入された。厚生労働省は「どの措置が適用されるかは、住んでいる市区町村や広域連合にしっかり確認してほしい」と話している。

(2008/04/29)