産経新聞社

ゆうゆうLife

75歳!どうなる私の保険料(3)


 □被扶養者から被保険者

 ■世帯所得で軽減判定

 高齢者のなかには、会社員をしている息子や娘の扶養家族(被扶養者)として、医療保険の保険料を納めていない人もいます。しかし、後期高齢者医療制度(通称・長寿医療制度)に移れば、自身で保険料を負担します。新たな負担に戸惑いの声が上がるなか、こうした人の保険料を、制度加入から2年間、軽減する激変緩和措置が講じられました。(横内孝)

 小林麗子さん(77)=仮名=は数年前、次男の功二さん(49)=仮名=が家族を千葉市において単身赴任するのを機に、功二さんと同居を決めた。今は栃木県小山市でふたり暮らしだ。

 麗子さんの年間収入は、国民年金約65万円と、遺族年金約26万円を合わせた91万円余り。糖尿病の持病があり、月1回、病院で受診している。医療費の窓口負担額は毎月、2000円前後だ。

 医療保険は今まで、功二さんが加入している被用者保険(組合健康保険)の被扶養者だった。だから、保険料負担はゼロ。しかし、後期高齢者医療制度では、75歳以上の加入者全員が被保険者として保険料を負担する。

 「ただでさえ、年金が少ないのに、介護保険料に続いて、今度は医療の保険料が引かれるなんて。なぜ、今まで通りの制度ではいけないのか。これでは、75歳を前に死ねというのと同じです」。麗子さんは嘆く。

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 国は麗子さんのように、これまで会社員の息子や娘の組合健康保険の扶養家族(被扶養者)になっていて、保険料を払っていなかった人に、激変緩和措置を設けた。制度加入から2年間は、所得に応じて払う「所得割額」はゼロ、ひとりに一定額がかかる「均等割額」は半分になる。さらに、特別措置として、4月のスタート時から9月までの半年間は保険料の支払いを全額免除し、10月から来年3月までは、保険料を均等割の1割負担としたのだ。

 功二さんが栃木県後期高齢者医療広域連合に母親の保険料を問い合わせたところ、「保険料が天引きされるのは10月からで、今年度の保険料は半年分で1800円」といわれた。1カ月あたりなら、300円だ。

 功二さんが重ねて、21年度の額をたずねると、担当者から世帯主を問われた。功二さんであることを伝えると、麗子さんと功二さんの収入、所得を聞かれ、担当者から「(激変緩和措置で、2年間は均等割額が半分になるので)保険料は年額1万8900円になる」と説明されたという。

 しかし、後期高齢者医療制度にある低所得者向けの保険料の軽減措置は受けられなかった。均等割額が7割、5割、2割減額されるもの。軽減措置の対象になるかどうかの判断は、被保険者だけでなく、世帯主の総所得も考慮される。麗子さんの場合、功二さんの収入もカウントされるため、この対象にはあたらなかったわけだ。

 「均等割額」と「所得割額を決める料率」は原則、2年ごとに決定されるので、22年度以降の数字は分からない。しかし、仮に、保険料の改定がなく、麗子さんの世帯構成や収入が今のままなら、どうなるか−。

 収入が年金のみの場合、153万円(公的年金等控除120万円+基礎控除33万円)以下なら所得割額はゼロ。遺族年金は非課税で、所得割額の算定基礎にならないので、麗子さんの場合、カウントされるのは国民年金のみだ。この結果、所得割額は今と同じゼロ。ところが、功二さんの収入があるため、均等割額の軽減は認められず、3万7800円を負担することになる。

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 功二さんは転勤族で、千葉市内に自宅がある。麗子さんも、千葉市内にマンションがある。異動になって、息子が自宅に戻れば、麗子さんも自分の家に帰るつもりだ。麗子さん自身が世帯主になれば、均等割額は7割減額される。その場合、保険料負担はどのくらいになるだろうか。

 後期高齢者医療制度の保険料は原則、都道府県内では、所得水準が同じなら、同じ額だ。ただし、都道府県を移れば、増減する。千葉県の均等割額は栃木県より400円安い3万7400円。来年、仮に麗子さんと功二さんが千葉県に戻れば、麗子さんは単身世帯になる。単身になれば、麗子さんは7割軽減の対象だ。保険料は1万1220円と、7680円も安くなる。麗子さん自身の収入は変わらないにもかかわらず、だ。「一緒に暮らしているのは、母の身を案じたからこそ。ぼくが一緒にいることで、母の保険料がかえって高くなるなんて…」。功二さんの心境は複雑だ。

 200万人ともいわれる被用者保険の被扶養者。政治的な配慮から、9月までの半年間は保険料が免除されたが、その後、段階的に負担は増え、3年目からは本来の額になる。

(2008/04/30)