産経新聞社

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75歳!どうなる私の保険料(4)政管健保から新制度


 ■負担増の「現役」は戸惑いも

 “人生50年”は過去の話。高齢になっても、第一線で活躍する人は少なくありません。後期高齢者医療制度(通称・長寿医療制度)がスタートし、現役で働いていた75歳以上の人も、勤め先の健康保険から新制度に移りました。これまでは、保険料の半分が会社負担でしたが、新制度ではすべて本人負担。なくなった給付もあり、不満や戸惑いの声があがります。(横内孝)

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 三重県松阪市の西村誓夫さん(75)は、「生涯現役」がモットー。国産材を専門に扱う年商21億円の「西村木材店」の創業者で、同学年の妻、郁子さん(76)とふたり暮らしだ。数年前に社長の座を息子に譲り、会長となったが、監査役の郁子さんとともに社業の発展に努める。「要するに、電話番ですわ」と笑うが、家族で会社を支える生活に変わりはない。

 「健康には気を付けているが、いつまで働けるか…」。今年に入り、75歳以上を対象に新しい医療保険制度が始まることを報道で知った。今までふたりは、中小企業の従業員らが加入する政府管掌健康保険(政管健保)の被保険者だった。19年度の保険料は、誓夫さんが約24万円、郁子さんが約12万円。世帯の合計負担額は37万円近かった。医者にかかったときに支払う窓口負担は、ふたりとも3割だ。

 「どんな内容の制度で、保険料はどうなるのか」。西村さんは3月上旬、役所を訪ねた。新しい保険証が届く10日ほど前。担当者によると、これまでは、世帯が払うのとほぼ同額の保険料を、会社が納めていたが、新制度では全額加入者の負担になる。19年の確定申告の数字をもとに、保険料がどの程度になるか聞いたところ、誓夫さんはほぼ倍の年約48万4000円。郁子さんは年約17万2000円。世帯負担はこれまでの倍近いというのだ。

 年金収入は、誓夫さんが年約172万円、郁子さんが約134万円。ふたりともほかに、給与収入などがある。

 後期高齢者医療制度では、所得にかかる「所得割額」と、1人当たりにかかる「均等割額」を足して保険料を算出する。誓夫さんの場合、総収入から公的年金等控除(120万円)などを差し引いた総所得は約692万円。ここから基礎控除(33万円)を引いた額に所得率(三重県では6・79%)をかけて算出すると、「所得割額」は約44万7000円。これに均等割額(3万6758円)を足したものが保険料だ。上限の年額50万円に近い。

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 誓夫さんが保険料の額以上に驚いたのが、市役所職員の「新制度では、傷病手当金(の給付)はありません」という言葉。傷病手当金は、けがや病気で働けないときなどの生活保障。要件を満たせば、1日当たり標準報酬月額の3分の2に当たる額が支給される。誓夫さんの場合、月約30万円が最長1年6カ月支給されるはずで、「生涯現役」を自負する誓夫さんには、今回の改正でも、これがどうなるかが最大の関心事だった。「これにはさすがに納得がいかなかった」と憤る。

 誓夫さんが三重県後期高齢者医療広域連合に理由を尋ねたところ、「新制度は国民健康保険(国保)から移った人が全体の8割を占める。このため、生活保障より医療保障が重要と考えた。これまで県内の市町が運営する国保でも実施実績がなく、他県の広域連合も給付を行わないことなどから、傷病手当金は支給しないことに決めた」という。

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 実は、後期高齢者医療制度で傷病手当金を支給するかどうかは、都道府県の判断。各都道府県内の全市(区)町村でつくる「広域連合」が条例で定める“任意”の給付で、厚生労働省によると、「47ある広域連合でこれを支給するところはない」という。

 ただ、被用者保険で傷病手当金を受給中だった人には、新制度でも、打ち切られないような経過措置が取られた。

 誓夫さんは「中小企業の経営者に、引退という言葉はない。体力と気力の続く限り仕事を続ける人がほとんど。国の都合で新制度に移されて、突如、『これからは給付はありませんよ』といわれたって、今さら民間の医療保険に入れる年齢でもないのに、困る」と戸惑いを隠せない。

 約1300万人が加入する後期高齢者医療制度。西村さんのような現役組は全体の約9%を占める。誓夫さんは「応分の保険料を負担するのは当然」と、負担増を冷静に受け止める。しかし、一方で「保険料は上がるわ、給付(傷病手当金)はバッサリ切られるわじゃ、たまったもんじゃない。国は高齢者の雇用拡大や継続雇用を強く求めているのに、言動が矛盾している」と話している。

(2008/05/01)