産経新聞社

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75歳!どうなる私の保険料(5)


 □特退制度から新制度

 ■「国に裏切られた」

 国は後期高齢者医療制度(通称・長寿医療制度)の負担について、「所得の比較的少ない人は負担減、所得の多い人では負担増も」と説明してきました。しかし、一定の収入があり、今回、負担増になった人からは「高齢になっても収入があるのは、これまで努力してきたからではないか」と恨みの声が上がります。(横内孝)

 神奈川県大和市の阿部久男さん=仮名=は4月28日に75歳になったばかり。一男一女は独立し、4歳年下の妻、和枝さん=仮名=とふたり暮らしだ。

 大手電機メーカーを定年退職後、勤め先の健康保険組合が運営する「特例退職被保険者(特退)制度」に加入。和枝さんはその被扶養者だった。

 「特例退職被保険者(特退)制度」は、一部の健保組合がOBを対象に運営している。加入は75歳までで、保険料はすべて本人負担だが、家族は被扶養者になれる。保険料は一律で、所属する健保組合の現役被保険者の平均標準報酬月額と、ボーナス平均の12分の1に相当する額の合計の半分だ。

 久男さんの19年度の保険料は年24万2000円。妻は被扶養者だから無料。久男さんは「保険料は(国保に比べ)割高と言われるが、付加給付や人間ドックの補助があり、直営保養所を利用できるのも魅力だった」と、特退を選んだ理由を話す。厚生労働省によると、特退制度を持つのは18年1月現在、わずか64の健保組合にとどまる。

 3月、神奈川県後期高齢者医療広域連合から久男さんのもとに新制度の保険証が届いた。しかし、それっきり何の音沙汰(さた)もない。「お知らせ」には、保険料が天引きされると書かれていたが、4月の年金振込額は前回と変わらなかった。

 業を煮やした久男さんは誕生日を前に市役所を訪ねた。自身の保険料はもちろん、この機に国保に移る妻の国保税額も知りたかったからだ。

 夫婦の収入の柱は、年金約428万円。久男さんにはさらに、「老化防止と健康維持のため」始めた特許関係のアルバイトや不動産収入が年150万円ほどある。

 結果は久男さんが年約26万円、和枝さんは年約2万5000円。世帯負担は2割近く増えそうだ。さらに、久男さんは“現役並み所得”とみなされ、医療機関での窓口負担も1割から3割になることが分かった。

 久男さんは「新制度は所得が一定程度ある、サラリーマンOBに負担増を強いる不合理なもの。“現役並み所得”と言われるが、それは努力して、ひたすらまじめに働き、国の制度に従い、素直に税金や保険料も納めてきたから。国の成長や発展のためであり、自分たちの定年後の生活のためだったのに」と納得できない様子だ。

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 新制度導入で、さまざまな軽減措置が打ち出された。久男さん自身は結局、それも対象外。和枝さんは組合健保などから国保に移った人向けの減免措置の対象となった。具体的には、加入の翌月から2年間、所得に応じてかかる「所得割額」と、資産に応じてかかる「資産割額」がゼロ。加入者一人一人にかかる「均等割額」と、世帯ごとにかかる「平等割額」は半分になる。65歳未満は対象外で、適用を受けるには自治体窓口での申請が必要だ。

 この措置は、国が法律で規定したものではなく、国保を運営する自治体が条例や要綱で定める。厚生労働省は「20年度の(国保料・税の)賦課が始まる6月ごろまでには、全市町村で実施していただけると思う」と話す。

 阿部夫妻が住む大和市はすでに減免を決定。和枝さんの国保税は今後2年間、均等割額の半分1万2600円と平等割額の半分1万3200円を合わせた年2万5800円。しかし、2年後に減免措置が切れ、仮に保険料率が今のままなら、税額は12万7700円と5倍近くに跳ね上がる計算だ。

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 75歳以上の人口は現在、約1300万人。18年度に約11兆円だった高齢者の医療費は、団塊世代が75歳以上になる平成37年には25兆円と試算される。

 阿部さんにあるのは、国に裏切られたという思いだ。「万人が納得する制度などない。しかし、新制度には、高齢者が元気で長生きしてよかったとか、現役世代が元気で長生きしたいと思える施策が何もない。世の中には、恵まれない人や年金の少ない人がいることは分かるが、取るべき所から取る努力もせず、納得のいく説明もなく、そういう人を救う帳尻あわせに、サラリーマンが蓄えてきた財源を国が政策として奪っていくのは不合理な話だ」と話している。(おわり)

(2008/05/02)