産経新聞社

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闘う女医さん(下)勤務の改善

大阪厚生年金病院の小川部長(右)と福田医師。同病院では、女性医師と男性医師が二人三脚で労働環境の改善に取り組む=大阪市福島区


 ■人材確保にも寄与

 女性医師への育児支援だけでなく、医師全般の労働環境を見直し、人材確保に成功した病院もあります。女性医師が半数を占める時代を前に、医療の場でも抜本的な労働環境の改善が求められているようです。(北村理)

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 「子育てしながら常勤医ができるなんて、想像もつきませんでした」

 大阪厚生年金病院の産婦人科医、福田綾さん(35)は2歳の子供を育てながら、当直、残業なしで午後5時まで常勤医として働く。同病院の「育児支援」を受けた働き方だ。

 育児支援とは、産後3年間は育児休暇が取れ、勤務する場合は時間も自由に選択できる制度。4年目から小学校卒業までは、週30時間働けば、社会保険やボーナスもつき、正規職員として身分保障される。勤務形態は昇進や昇格に影響しない。

 福田さんは「ここに来るまでは、妊娠したら開業か、人の多い大学病院で働くことしか考えられなかった。一般の病院で勤務すると、他の人に負担をかけるという気兼ねがあった」と振り返る。

 同病院の産婦人科には現在、小川部長ら4人の男性医師と6人の女性医師がいる。女性6人のうち、3人が育児支援を受けての勤務。女性医師は増え続け、今や全診療科の医師200人のうち、研修医も含め約70人が女性という。

 こうした制度を維持するため、運用にあたっては「女性医師が午後5時の段階で手術をしていたら、交代させることもあった」(小川部長)ほど徹底した労務管理をした。

 福田さんは病院の姿勢について、「同僚への気兼ねはなくならないが、ルールが明確なので気が楽だし、職務に集中できる」と歓迎し、小川部長も「仕事と育児を両立しようという医師は、仕事の効率も非常に高い」と評価する。

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 育児支援を受ける女性医師は、本人が望まない限り、宿直や緊急呼び出しの待機はない。その分、他の医師がそうした勤務につく。小川部長は「特に、男性医師が不公平感を抱かないようにしたことが、軌道に乗った一つの要因だった」と言う。

 実は、同科は2年ほど前、休診の危機にあった。3人の男性医師のうち、1人が退職。小川部長ら2人の男性医師が「月数回の宿直と月20日の緊急待機で疲労困憊(こんぱい)していた。2人でやめようかと話していたほどだった」。

 しかし、人手不足を補おうと、女性医師の獲得に乗り出し、同時に男性医師も含めた勤務時間の見直しを始めた。まず、宿直明けの終日勤務をやめた。宿直勤務後、そのまま日勤に入り、ぶっ通しで36時間働いてしまうような勤務のことだ。

 昼間は育児支援を受けた女性医師らがいる。宿直明けの男性医師は速やかにバトンタッチさせ、帰宅させた。同時に、宿直の7割ほどは近隣の開業医など、外部の医師にアルバイトとして委託した。

 この結果、産婦人科の超過勤務時間は、最高だった時点の230時間から、93時間に減少。勤務状態の改善に伴い、男性医師も増えた。苦しい状況を乗り切るうちに、産休で職場を離れていた女性医師も次々、復帰してきた。

 戦力が増えると、分娩(ぶんべん)も断らずに受け入れられる。過去数年で分娩数は倍増し、収入も増えた。症例数が増えれば、研修希望の医師の人気も上がる。育児支援は研修医にも適用される。研修医は断りきれないほどだという。

 小川部長は「研修医は潜在的な戦力となる。労働環境を改善すれば人も集まる。そのきっかけをつくったのは、育児をする女性医師たちだった」と振り返る。

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 育児支援が人材確保に寄与した格好だが、福田さんは「今後、親の介護を考えると、決断しなければいけない時期もくると思う」と将来の不安を口にする。

 全国の女性医師から復職相談を受ける東京女子医大・女性医師再教育センターの川上順子教授も「親の介護のために、復職の研修を中断した女性医師もいる。介護の対策も、今後考えなければならない課題だ」と指摘する。一般に、医師になるには時間がかかる。女性医師は高齢出産になりがちで、一般の人よりも、育児と介護が“ダブルパンチ”で来る確率は高いからだ。

 厚生労働省は、約40年後には女性医師は半数に達すると予測する。川上教授は「出産は女性しかできないが、育児と介護は男性にもできる。男性医師にもそうした機会を保証することが、女性医師確保にもつながる。医者の職場環境が変われば、患者への接し方にも余裕が生まれ、医師への信頼回復にもつながるのではないか」と期待している。

(2008/05/08)