産経新聞社

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早く、切れ目なく 成功する脳卒中リハビリ(下)

リハビリ機材が到着し、病棟オープンを前に、準備が着々と整う=19日、西横浜国際総合病院



 □回復期病棟の不足

 ■報酬加算で拡大へ

 脳卒中患者の後遺症を最小限に抑える早期リハビリは、有効な寝たきり防止策でもあります。医療費削減を目指す国は、診療報酬の引き上げなどで早期リハビリを質、量ともに充実させる方針です。国の後押しを受け、都市部を中心に回復期リハビリ病棟を設置する動きが出てきています。(佐久間修志)

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 横浜市戸塚区の西横浜国際総合病院は6月16日、回復期リハビリ病棟を開設する。西の窓から富士山を望む5階部分41床を割り当てる予定だ。

 半径約5キロ内に国立横浜医療センターや横浜栄共済病院、済生会横浜市南部病院など300床以上の大規模病院7つがひしめく急性期医療の激戦地。年間1200例の脳卒中手術が行われているが、回復期リハビリを行う病院はほとんどなく、急性期を終えた患者は、厚木市や青葉区への転院を余儀なくされていた。

 西横浜国際総合病院自体、脳卒中治療は急性期がメーンだったが、月100例近いリハビリ需要を踏まえ、回復期への参入を決めた。経営母体の医療法人が、維持期の在宅医療を手がけていることも、医療連携の面でプラスだ。

 専従医は柏木潤一リハビリテーション部長。都内のリハビリ病院で勤務経験豊富な実績を買われ、開業準備を切り盛りする。開業まで1カ月足らず。「マニュアル作成からスタッフの教育まで、時間がいくらあっても足りません」と病棟をかけ回る。

 最初は小規模な病棟改築ですませようと考えたが、結局は大改修になった。疋田憲明事務局長は「トイレや浴槽の数など、どれをとっても中途半端では済まなくなった」と苦笑するが、「徹底的にやれば、病院経営にも地域医療にもプラスですから」。

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 厚生労働省は今年度、回復期リハビリ病棟に対し、条件付き(後述)で診療報酬点数をこれまでの1680点から1740点(重症患者回復病棟加算を含む)へと大幅に上乗せした。

 その差60点。金額にして1日1ベッドあたり600円の加算だ。しかも、これまでは外来を行わない「専従」医師を配置しなければならなかったが、4月からは外来のかたわら「専任」医師を配置する形も可能になり、“新規参入”のハードルが引き下げられた。

 手厚い加算の背景には、脳卒中の早期リハビリが効果的にもかかわらず、都市部を中心に回復期リハビリが絶対的に不足している現状がある。回復期リハビリ病棟は平成12年に承認されてから、右肩上がりに増加している。だが、全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会の調査によると、国民10万人あたりのリハビリ病棟数は全国平均でまだ34床。同協議会が十分とする50床に遠く及ばなかった。

 医業経営コンサルタントの秋元聡氏は「以前の診療報酬点数では、回復期リハビリの経営は厳しく、人員要件のクリアも難しかった」と“伸び悩み”の要因を分析する。その上で、「それだけに今回の改定、特に報酬の加算は大きなインパクト。新たに病棟を開設、または拡大するという声があちこちから上がっている」と明かす。

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 こうした“アメ”的施策の一方で、厚労省は「質」を担保するため、回復期リハビリ病棟について(1)重症患者が入院患者の15%以上(2)退院した患者の在宅復帰率が60%以上−の条件を設定。満たさない場合は診療報酬をこれまでより85点引き下げる“成果主義”を打ち出した。

 だが、成果主義の導入に懸念を示す医師も少なくない。大阪府にある総合病院の男性院長もその1人。「脳卒中は同じ重症でも、患者の年齢などによって回復度合いが違う。診療報酬に差をつければ、高齢患者を受け入れない医療機関が出かねない」と警鐘を鳴らす。

 この病院は数年前、地域で初の回復期リハビリ病棟を開設した。国の施策で保有する療養病床の転換を余儀なくされたためだ。地域は高齢化が進み、リハビリを受ける患者は高齢者が多い。「必死にリハビリしても、重症の高齢者を在宅復帰させるのは難しい。それは医療の質とは別の問題」(院長)と強調する。質を重視することには反対ではないが、診療報酬上のペナルティーを持ち込むのは疑問が残るという。

 「成果を抜きにして患者を治すことだけを考えるのが本来の医療。成果が影響すると、医療のあり方がゆがみかねない」。質の評価は厚労省への成果報告などで行われるべきだと主張している。

(2008/05/21)