産経新聞社

ゆうゆうLife

65〜74歳 障害者の選択(上)


 □高齢者医療制度の中で

 ■同じ収入でも制度変われば… 国保と新制度どちらが

 4月に始まった後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の対象者は75歳以上のお年寄りだけではありません。65歳〜74歳で障害のある高齢者も任意で加入できます。ただ、加入にあたっては、保険料の増減や医療費の窓口負担、自治体の医療費助成制度が受けられるかどうかなど、十分な比較検討が必要です。3回にわたり、障害者のそれぞれの選択を紹介します。(横内孝)

 横浜市の早乙女謙作さん=仮名=は4日で68歳になる。福祉関連団体で働く18歳年下の妻と2人暮らし。26歳のとき、自宅の庭木の手入れをしていて、誤って転落。脊髄(せきずい)を損傷し、下半身が不自由になった。「車いすの生活だが、車を運転したり、スポーツを楽しんだり、行動範囲は広いですよ」と笑う。

 昨年3月、長く務めた団体の嘱託職員を退き、市の国民健康保険(国保)に入った。19年度の国保料は年間約29万円。計算の元になる前年収入に年金、不動産収入に加え、給与があったためだ。妻は勤め先の被用者保険の被保険者だ。

 今は2、3カ月に1度、泌尿器科と消化器科を受診する暮らし。医療機関で支払う窓口負担は本来なら、現役並みの3割。しかし、神奈川県と横浜市が重度障害者を対象に行っている医療費補助があり、窓口負担は全額公費で賄われる。

 今年2月、早乙女さんの元に、区役所から後期高齢者医療制度への加入の意思を確認する通知がきた。同封の文書を読んでも、新制度に加入した場合の長所や短所、保険料負担などの説明はなかった。ただ、加入しても、しなくても、今、適用されている自治体の医療費助成は継続されるということは分かった。

 新制度で保険料がどうなるのか−。気にはなったが、昨年3月で団体職員を辞め、19年の収入は減った。移行しても、大きな負担増にはならないと思い、返事をしなかった。「障害者である前に、われわれは市民。障害があるから、医療費は人一倍かかるが、窓口負担は免除してもらっている。何でもかんでも支援を求めたい人もいるが、私は自立した納税者として、応分の保険料負担をしようと思っている」と早乙女さん。

 すると、3月下旬、一方的に後期高齢者医療被保険者証が送られてきた。

                   ◇

 後期高齢者医療制度の保険料は、加入者全員が負担する「均等割額」と、所得に応じて負担する「所得割額」の合計。都道府県の全市区町村でつくる広域連合が決定し、市区町村を通じて通知する。神奈川県の均等割額は3万9860円。所得割額は、総所得から基礎控除33万円を差し引いた額に料率7・45%をかける。

 後期高齢者医療制度の保険料通知は7月。実際に、早乙女さんの保険料はどうなるのだろうか。早乙女さんの年金収入は、障害基礎年金と厚生年金の合計年150万円余り。障害基礎年金は非課税だから、これだけなら、所得はゼロ。しかし、「障害を負い、将来の備えとして始めた」(早乙女さん)不動産賃貸の収入があり、19年の総所得は約224万円に上る。

 県広域連合によると、新制度での早乙女さんの保険料は18万2700円の見通しだ。昨年度の国保料より10万円以上安い。

                   ◇

 しかし、国保に残っていたら、どうだったのだろうか−。

 横浜市の国保料は、所得割額と均等割額の合計で、所得割額は住民税(市民税)を元に計算する。19年度に早乙女さんの市民税は16万3300円だったが、20年度には7万5400円と半分以下になる。国保料は13万5000円余り。後期高齢者の保険料より5万円近く低い計算だ。

 後期高齢者医療でも、国保でも、保険料が昨年度より大きく下がるのは、早乙女さんの所得が減ったから。国保の方が安い理由について、市の担当者は「後期高齢者医療制度の保険料計算では、総所得からの控除は基礎控除だけ。それに対し、市民税は総所得から社会保険料控除や障害者控除などの各種控除を差し引いて算出するため。昨年度に比べ、横浜市では今年、国保の所得割の料率と均等割の額が下がったこともある」と解説する。

 早乙女さんは近く、保険料を区役所で確認するつもりだ。「障害のある仲間内でも、国保と新制度のどちらがいいか話題になったが、保険料がどうなるか、分かる人はだれもいなかった。同じ収入なのに、制度が変わると、こんなに違うなんて驚きました。よく考えてみます」と話している。

                   ◇

 ■障害者の任意加入は?

 65歳〜74歳の障害者は、後期高齢者医療制度の広域連合から一定の障害状態(身体障害者手帳1、2、3級、4級の1部、療育手帳A1、A2を持つ人など)と認定されると、75歳以上を対象にした新制度に入れる。窓口負担は原則1割で、75歳未満の年齢層と比べて低い。窓口負担、任意での障害者の加入は、新制度発足と同時に廃止された老人保健制度の仕組みを踏襲している。

(2008/06/02)