産経新聞社

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地域で違う保険料 高齢者医療制度の不思議(上)

後期高齢者医療制度の住民説明会では、保険料への質問が相次いだ=東京都中野区



 ■同じ所得でも大きな差 老人医療費が地域差生む

 4月から始まった後期高齢者医療制度の保険料では、保険料に地域差があるのを、ご存じですか。平均保険料の差は2倍にも上りますが、注目したいのはむしろ、同じ所得でも、地域によって保険料に差が出る点。平均的な所得層で保険料を比べたところ、地域によって年間5000円近い差が出ることが分かりました。その理由を探りました。(横内孝)

 「保険料が多少違うというのは知っていたが、こんなに違うの…。東京は安い方なんだ。しかし、福岡や高知はずいぶん高いね」

 東京都中野区の住民説明会に参加した1人暮らしの男性(83)は手渡された資料を見て、そんな感想をもらした。

 資料は、全国の保険料が一覧できるもの。加入者が原則、等しく負担する「均等割額」だけを見ても、地域によって年間1万5000円以上もの開きがある。「(所得によって負担する)所得割部分が違うのはなんとなく分かる気がするが、だれもが負担する均等割額で、こんなに差があるのはおかしいんじゃないか」

 新制度の対象者約1300万人のうち、最も多くの人が属する所得層は、「公的年金収入が153万円以下」とされ、全体の3〜4割を占める。その層をモデルに、年間保険料を比べると、最高の福岡県は1万5280円。最低の新潟県の1万500円より約5000円高く、1・45倍に上った。

 保険料は各都道府県の広域連合が、国の算出方法に基づき、今後の高齢者人口と医療費の伸びなどから決める。加入者が原則、“割り勘”で払う均等割額と、所得に応じて払う所得割の合計。最も多くの人が属するとされる「年金収入が153万円以下」の層では、所得割はゼロで、世帯収入を基準にした軽減幅が現在の7割から今年度は8・5割に拡大される。

 「5000円でも、年金生活には響く。この差はばかにならない。これだけあれば、1週間分の食費が浮くよ」

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 なぜ、同じ所得層でも、保険料に地域差が生じるのか−。厚生労働省は「最大の要因は老人医療費の差。老人医療費が高い都道府県ほど、そこに住む高齢者の保険料は高くなる」と説明する。75歳以上の高齢者の医療費が高い地域ほど、保険料も高いというわけだ。

 新制度では、高齢者が医療機関で払う窓口負担(原則1割)を除き、5割が公費(税金)、4割が現役世代の保険料、残り1割が高齢者の保険料。また、高齢者(被保険者)への健康診断費用や葬祭費なども原則、保険料で集める。

 高齢者の保険料は、半分を均等割、残りを所得割で賄う。しかし、所得の低い地域では、所得割額で半分を集めきれない。所得水準が全国平均を下回る広域連合は実に36と、47都道府県の4分の3を占める。こうした地域には、国が“仕送り”(調整交付金)を増やして格差を埋める。東京、神奈川など、所得水準の高い11の広域連合は所得割額を多く集められるので、その分、交付金が減らされる。

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 表で保険料の高い都道府県を見ると、1人当たりの老人医療費の高い地域が並び、保険料が低い都道府県は老人医療費が安い。

 保険料が最高の福岡県は1人当たりの老人医療費が平成14年度以降、4年連続で全国トップ。県内のある市の担当者は「深刻な状況を被保険者にもご理解いただき、老人医療費の適正化を進める必要がある」と話す。福岡県に次ぐ高知県は「長期療養に利用される療養病床が多く、入院医療費が高い。保険料が高いのは、老人医療費が全国で3番目に高いのが主因」(広域連合の担当者)と分析する。

 一方、保険料の低い都道府県には、厚生労働省が「地道な保健指導などで、医療費の適正化に努めている」と評する長野県はじめ、老人医療費の低い都道府県が名を連ねる。新潟、長野、静岡の3県は19年の「厚生労働白書」で健診の受診率や高齢者の就業率も高いと指摘されており、医療費増に頭を痛める自治体の指針ともなりそうだ。

 香川大学の小松秀和准教授(社会保障)は「75歳以上の高齢者全員を被保険者とすることで老人医療の給付と負担を明確にし、老人医療費の地域格差を保険料に反映させることで、増加の一途をたどる医療費の抑制につなげようとの意図がある」と解説する。

 次回は古くから保健指導や介護予防に取り組み、老人医療費が少なく、保険料も低い首都圏の自治体の取り組みをお伝えする。

(2008/07/07)