産経新聞社

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地域で違う保険料 高齢者医療制度の不思議(中)


 □不均一保険料

 ■保健・栄養指導で抑える

 後期高齢者医療制度の保険料は都道府県内では原則、同じですが、1人当たりの老人医療費が域内の平均より20%以上低い市町村は低く設定されます。こうした「不均一保険料」が、27都道府県約100市町村で設定されました。そのひとつ、埼玉県小鹿野町は、介護保険で予防サービスが始まる前から、高齢者の健康づくりに努めてきました。(横内孝)

 埼玉県の西北部、秩父市と群馬県に接する小鹿野町は人口約1万4000の小さな町。高齢化率(65歳以上)は28%と県平均を10ポイント以上、上回る。4人に1人が65歳以上で、新制度の対象は約2400人だ。

 一方、1人当たりの老人医療費は15年度から3年平均で50万4570円と埼玉県の平均を約23万円も下回る。全国最低の長野県よりも、さらに13万円以上低い。診療所がない“無医地区”でもなく、小鹿野町には町立の国保病院はじめ、医院、歯科など、10近い医療機関がある。

 なぜ、老人医療費が安いのか−。最近この手の質問が多く、小鹿野町保健福祉課の分須(わけす)亮太郎さんは戸惑い気味だ。「医療費は抑えようと思ってできるものではないし、これで下がりましたといえる決定打はないです。強いて挙げれば、地道に取り組んできた保健・栄養指導や介護予防の成果ではないでしょうか」

 小鹿野町は平成3年に“健康の町”宣言を出し、歴代町長の旗振りで高齢者の介護予防に取り組んできた。活動の中心が13年度から始めた健康づくり教室だ。

 6月半ば、町の「いきいき館」で開かれた教室には、70〜80代のお年寄り約20人が参加した。足腰の衰えた人も参加できるよう、町が自宅まで送迎バスを仕立てる念の入れようだ。

 健康運動指導士と栄養士の指導のもと、午前10時からペットボトルやイスなどを使った軽い運動やレクリエーション。昼は隣接する町の温泉施設で500円のお弁当を食べ、午後はカラオケや陽気がよければウオーキングをかねた花見など。この日は見ごろのショウブを見に出かけた。健康料理教室や社交ダンス教室もある。

 「家でも手軽にできる運動を教えてくれるから、助かる。何よりの楽しみは、仲間とのおしゃべりかな」。風邪で休んだ以外は皆勤賞という女性(82)は笑う。

 町では、高齢者の栄養指導にも力を入れる。ゴーヤなど体によい食品を使った沖縄料理教室や、減塩指導のため全戸のみそ汁の塩分測定なども。保健師を手厚く配置するなど“投資”もした。

 医療、福祉、介護サービスも一体的に提供する。町立国保病院には通所リハビリや訪問診療のサービスがあり、隣の保健福祉センターには訪問看護ステーション、ヘルパーステーションがある。入院患者の自宅復帰は、医療、介護、保健の関係者が話し合って進める。「入院日数が短いのは、うまく連携しているから。町の介護予防や保健指導の成果は、医療・健康指標を示したレーダーチャートにあらわれている」(県国保医療課)

              ■ □ ■

 連載(上)でお伝えした通り、後期高齢者医療制度では、老人医療費が高い都道府県ほど保険料が高い。しかし、市町村の老人医療費には差がある。国は制度発足にあたり、老人医療費が平成15年度から3年平均で、域内平均に比べ20%以上低い市町村では、保険料を安く設定する「不均一保険料」を認めた。

 老人医療費が県平均より30%以上低い小鹿野町には埼玉県内で唯一、不均一保険料が設定された。均等割が3万5760円、所得割率が6・70%。埼玉県は均等割が4万2530円で、所得割率が7・96%だから、均等割だけでも約7000円近く安い。小鹿野町で加入者の約4割が公的年金収入が153万円以下で、7割減額を受ける。保険料は年間1万720円だ。

 4月、6月の年金から1700円の保険料が天引きされた女性(79)もそのひとり。「医療費が低いと聞いてもピンとこないね。健康の秘訣(ひけつ)は、今も畑仕事をしていることと、何でも好き嫌いなく食べることぐらいかね」

 ただ、不均一保険料は最長6年の時限。段階的に引き上げられ、7年後には料率がそろう。一方、町の負担は今後も定率。医療費が低ければ、負担額は小さい。しかし、猪野龍男・小鹿野町保健福祉課長は「私どもは、健康づくり事業に地道に取り組み、医療費を低く抑えてきた。7年後も医療費が少なければ、町の負担は少なくて済むが、保険料が同じになっては、当のお年寄りは報われない。国や広域連合は医療費の安い地域については、その努力を認めてほしい」と話している。

(2008/07/08)