産経新聞社

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地域で違う保険料 高齢者医療制度の不思議(下) 


 □「上限」に達する所得もまちまち

 ■医療費の高低ひびく

 老人医療費が高い都道府県ほど、後期高齢者医療制度の保険料は高くなりますが、どんなに所得が多くても、上限は1人50万円です。ただ、どの所得で50万円に達するかは地域で違います。北海道、福岡などでは比較的低い所得で上限に達するのに対し、東京、長野ではなかなか達せず、上限に達する所得は最大で年230万円も違います。(横内孝)

 「正直、今からびくびくしています。高いと聞いているからね。私も含めて年寄りは増えるばかりだし、この先もっと高くなる可能性だってある」

 福岡県内で1人暮らしをする元商社マンの小嶋幸市さん(74)=仮名。新制度への仲間入りが来春に迫り、不安が募る。平成19年の総所得(33万円の基礎控除前)は年金とアルバイトの合計で約550万円。

 そこで、新制度に移った場合の小嶋さんの年間保険料を試算した。福岡県の「均等割」は5万935円、所得に応じて負担する「所得割」は「(総所得−33万円)×9・24%」で、47万7708円。合計で52万8643円だが、保険料の上限(賦課限度額)は50万円だから、小嶋さんの保険料は50万円になりそうだ。

 厚生労働省は上限を50万円に設定したことについて、「国民健康保険の限度額と同程度まで負担を求めつつ、中間所得層の負担を抑制するため」と説明する。

 では、現役時代は転勤族だったという小嶋さんが別の場所に移り住んだら、保険料はどうなるのか−。娘夫婦がいる東京なら、37万6952円。上限に達しないばかりか、福岡に比べ12万3048円も安い。東京では均等割が3万7800円で、所得割率が6・56%と、いずれも、福岡県に比べて低いためだ。「福岡は生まれ故郷だし、今さらほかへ移るつもりはないが、ずいぶん違うものだね…。同じ医療サービスを受けるのに、住んでいる地域で保険料が違うのはおかしいんじゃないか」。小嶋さんは釈然としない様子だ。

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 保険料が50万円に達する所得(総所得−33万円)が低い自治体と高い自治体を調べたのが表だ。後期高齢者医療制度では、医療費が高い都道府県ほど、加入者の保険料が高い。北海道や福岡だけでなく、9番目に負担感が重い大阪は、医療費の高さでは4番目だ。ただ、保険料の多寡は医療費だけで決まるわけではない。負担感が3番目に重い香川は、医療費では15位だが、葬祭費など医療給付以外の費用を手厚く見積もった。東京は医療費は安くないが、一般財源からの繰り入れで保険料の上昇を抑えた。

 負担感を左右するのは所得割率で、北海道は全国最高の9・63%。長野は6・53%と全国最低だ。所得割は年金収入で153万円を超える人が、所得に応じて負担する。率は都道府県内で集める所得割の総額を、所得割を負担する人の所得の合計額で割って算出する。

 香川大学経済学部の小松秀和准教授(社会保障)は「所得割率は医療費が高ければ高くなる。また、広域連合内の加入者(被保険者)の所得分布などにも影響される。国の調整交付金である程度、調整されるとはいえ、所得割を負担できる人が少なければ、広域連合は率を上げざるをえない」と指摘する。そのうえで、「北海道と福岡は医療費そのものが高いのはもちろん、所得割のかからない低所得者の割合が高く、所得割を負担できるのは加入者の3分の1程度。東京では逆に中・高所得者層が厚いので、老人医療費が比較的高くても、所得割率が低く抑えられている」と分析する。一方で、高所得者に保険料上限があり、賦課できない分が、残りの人の保険料として賦課される側面もある。

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 上限の50万円について、広域連合はもっと低く設定できるが、すべての広域連合が今回、50万円にした。しかし、この限度額引き上げを求める声もある。「所得が500万あっても、1000万あっても、保険料が50万円なのはおかしい」というわけだ。

 これに対して、厚生労働省は「働き盛りの世代の負担限度額を上げるのは分かるが、75歳以上の、今までがんばってきた人の負担を上げろというのはバランス的にどうか。無制限に負担してもらうのではなく、線引きが必要」と話す。

 小松准教授も「公平にするなら、所得割がかからない層の扱いも見直すべきで、高所得者だけ無制限に取るのは筋が通らない」と指摘する。

 ただ、地域の所得水準に応じた上限額を設けるべきとの意見もある。保険料に直結する問題だけに、しばらく議論が続きそうだ。

(2008/07/09)