産経新聞社

ゆうゆうLife

【ゆうゆうLife】外出したい街づくり 医療と福祉を予防する 

グループホーム「なも」の訪問者と見送りに出た入居者=名古屋市南区


 ■チャリンコ隊で空き家探し

 名古屋市の南医療生活協同組合は、介護保険発足を機に、認知症高齢者グループホームやデイサービスなどの開設を目指して、ほかの福祉施設見学を重ねた。

 近代的な施設は段差をなくし、スリッパや土足にしている所が多い。しかし、70年以上前の記憶が残っている認知症高齢者は混乱する。高齢者になじむのは古い民家で、「利用者が施設に慣れるのではなく、施設が利用者の生き方に合わせる」小規模グループホームの良さを学んだ。

 さっそく「チャリンコ隊」を結成し、地域の空き家探しを始めた。見つかったのは築60年の民家で、部屋の扉は引き戸、風呂やトイレも一般家庭と同じ、素足の生活である。玄関を出ると庭があり、四季を感じられる。こうして、1ユニット定員8人のグループホーム「なも」が誕生した。

 入居者はほとんど毎日、買い物、散歩、寺社のお参り、喫茶店での飲食、地域行事などに出かける。「なも」誕生の経過を知っている近所の人から声をかけられ、あいさつを交わす。店員と顔なじみになる。認知症になって人間関係や社会性が失われていたのが、外に出ることで回復し、生活意欲も向上した。地域内外からの見学者、面会、ボランティアなどの訪問者も多く、社会との接点ができる。

 「なも」管理者の水上晃さんは言う。「自宅に閉じこもっていては、スポットライトが当たることはない。ホームや地域の中での居場所と役割をつくることで、これまでの生活と同じような環境が保てる」と。

 「なも」開設委員でボランティアの浅井康子さんは、日本居住福祉学会の「居住福祉資源認定証」表彰式でこう、あいさつした。

 「空き家を探すことが目的なら、準備委員が探し回らなくても、不動産業者に聞けば済む。また空き家が見つかっても、グループホームが地域にどう貢献できるかを家主に語れないと、貸してくれない。空き家を探すという地道な活動から、地元住民の高齢者問題への共感が生まれ、運動の輪が広がっていきました。オープンの日から、たくさんの人に見学に来ていただきました」

 私もお訪ねするたびに、入居しているお年寄りたちに笑顔で歓迎され、茶菓でもてなされる。帰りには家の外まで見送りに来てくださる。

 地域を駆けめぐったチャリンコ隊の活動は、これからの高齢者福祉施設づくりに大きな示唆を与えているように思う。(神戸大名誉教授 早川和男)

(2008/08/06)