産経新聞社

ゆうゆうLife

長期療養のおむつ代・寝間着代(上)


 ■月7万円の保険外負担

 療養病床などで長期療養をする高齢者の家族から、「保険外負担」の重さに悲鳴が上がっています。“隠れた医療費”ともいわれる保険外負担については、国が通知でガイドラインを示しているものの、指導や管理が届きにくく、内容や金額はまちまち。今回はおむつ代や、「入院セット」と呼ばれる寝間着・タオルなどを例に、実態を探ります。(横内孝)

 「おむつ代、病衣のリース代、クリーニング代…。この先、払い続ける自信がありません」

 神奈川県に住む浜口学さん(65)=仮名=は、父(99)の入院でかかる保険外負担の重さに途方に暮れる。父親は今年1月、ショートステイ先で転倒して大腿(だいたい)骨を骨折。救急病院で手術を受けたものの、寝たきりになった。リハビリ病院を経て、5月には介護老人保健施設(老健)に移ったが、食べ物をうまく飲み込めず、6月半ばには誤嚥(ごえん)性肺炎を起こし、現在は老健の提携先である医療型療養病床に入院している。

 父親にかかる保険外負担は転院で増えた。入院相談では、リハビリ病院でも療養病床でも、医療相談員から「院内の衛生管理の徹底のため」と、おむつ代や寝間着、タオル類のリースを強く勧められた。浜口さんは「少しでも負担を軽くしたい」と、持ち込みを希望したが、相談員は「当院の方針にご理解、ご協力を」の一点張り。強く主張すれば、入院を断られかねないと、浜口さんは結局、リースの契約書にサインした。

 「私は足が不自由で、在宅介護は無理だし、病院もそこしか空いておらず、背に腹は代えられない状況でした。正直、私もずるいかもしれませんが、とりあえず、入院させてもらい、費用は後で姉妹と相談するなり、病院に持ち込みを掛け合おうと思っていました」と振り返る。

 リハビリ病院では、おむつ代と寝間着、タオル類などがセットで1日2000円弱で、保険外負担だけで月に6万円弱。転院した療養病床では、「おむつ代」「病衣貸与代」「洗濯代」がそれぞれ請求され、月1回の歯科口腔(こうくう)ケア代を加えて、保険外負担は月に約7万円に。食費などはまた別だ。

 浜口さんは中学生の娘と2人暮らしで、父親同様、年金が支え。生活を切りつめるが、不安は募るばかりだ。「保険外負担といっても、病院によって内容や料金はさまざま。おむつはドラッグストアで買った方がよほど安い。お金がない年寄りは入院できないということでしょうか」

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 ■本来、徴収できないケースも

 おむつ代や寝間着・タオル代などの保険外負担について、厚生労働省は3年前、通知を出した。「お世話料」「施設管理料」「雑費」など、あいまいな名目は認めず、「徴収できる費用は実費で、社会的にみて妥当適切なものとし、患者や家族に対し、明確かつ懇切に説明し、同意を確認のうえ徴収すること」とした。そのうえで、徴収する場合は、受付窓口や待合室などの見やすい場所に、内容と料金を掲示するよう義務づけた。

 しかし、今回、日本慢性期医療協会の会員で、神奈川県と東京都の約30の療養型病床に保険外負担の料金や内容などを電話で照会したところ、「入院を希望する患者や家族のみに公表する」との回答も少なくなかった。徴収例を見ても、療養病床のおむつ代が1日に1000〜2000円と開きがある。寝間着、タオルなど、リース代の差はさらに大きい。

 神奈川県のある病院事務長は「価格設定は各病院の自由裁量。病院経営に必要な額から逆算して費用を算出している」と、実費以上のコストが含まれていることを暗に認める。

 これに対して、厚労省保険局は「実費以上を患者から取って金もうけをしているなら、(営利目的を禁じた)医療法上問題だし、例えば、診療報酬で評価しているおむつの処理費用を徴収しているなら、“二重取り”で違反だが、『原価や人件費がかかるので妥当適切な額です』と言われれば、それを否定できない」と逃げ腰だ。

 医療機関を監査指導する社会保険事務局の担当者も「厚労省通知は、表現が具体性を欠くので、監査などで『高い』と指摘しても、病院から積算根拠を示されれば、それ以上、文句は言えない」と行政指導の限界を認める。保険外サービスは、自由競争で値段が決まる民間対民間の話というわけだ。厚労省も「保険外」の分野に踏み込んだ指導は難しいというのが本音のようで、保険外負担は、価格決定権を持つ病院の“常識”に委ねられているのが実情だ。

 患者としては、病院の“誠実さ”を測る目安として、「院内掲示」の有無を確認したり、本来、保険外で徴収できない費用が含まれていないか、入院相談の際に内容や根拠を聞くなどの自衛策はありそう。しかし、病院から一方的に示される費用が「自由競争での値付け」と言われても、選べなければ、違和感は残る。明日は「保険外負担は選べるか」をお伝えする。

(2008/08/18)