産経新聞社

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長期療養のおむつ代、寝間着代(中)

各病院のおむつ、寝間着など「入院セット」の利用案内。いずれの病院もAがおむつ、寝間着、タオルなどの身の回り品一式。上、中の写真のB、下の写真のC、Dがおむつを除いた組み合わせ。費用差は大きい


 ■持ち込み“陳情”でやっと

 長期療養の際に、病院から求められるおむつ代や寝間着代は、患者や家族には大きな負担です。患者側からは「保険外サービスの利用を強いるのはおかしいのでは。おむつや寝間着は持ち込めないのでしょうか」との声が上がります。首都圏にある長期療養の病床の実態を調べました。(横内孝)

 神奈川県に住む浜口学さん(65)=仮名=は、父親(99)がリハビリ病院に転院して1カ月半たった4月上旬、入院先の事務長から呼び出しを受けた。「退院予定日まで、おむつも含めて、寝間着、タオルなどの入院セット一式を持ち込んでいただいていいですよ」

 「このままでは早晩、病院に迷惑をかける。なんとか私物の持ち込みと洗濯を認めてもらえないでしょうか」。父親の入院以降、浜口さんは病院側に再三、“陳情”した。持ち込みは一貫して認められなかっただけに、浜口さんは「恥を忍んでお願いしたかいがある」と、喜んだ。が、事務長は「方々でうちの話をされたようですね」と浮かぬ顔だったという。

 思い当たる節はあった。月に6万円近い保険外負担に頭を痛めた浜口さんは“病院詣で”と並行し、市や保健所、県に同様の相談を持ちかけたのだ。「権限がないので、指導できない」(市)、「保険外のことなので、当事者同士で話し合ってほしい」(神奈川県)と、具体的な解決策は示されなかったが、窮状が伝わったのか、県の担当者は「電話で先方に状況を確認します」と言ってくれた。

 病院側が方針転換した真意は分からないが、「指導権限のある県に目をつけられてはたまらないと思ったのでは」と、業界に詳しい関係者は推測する。

 おむつと洗濯物の補充のため、浜口さんは父親が老人保健施設に移るまで、車で20分の道のりをほぼ毎日通い、3週間分のリース代4万円相当を節約した。「どうせなら、最初から認めてもらえればよかった。本来、患者や家族が選ぶべきものだと思うんですが、病院の意向次第なんでしょうか。納得がいきません」

 ■「保険外」は病院収入の一つ

 ≪強制は不可≫

 保険外のサービスを、患者側は選べるか−。厚生労働省は3年前、通知で「保険外負担として費用を徴収するサービスは患者の選択に資するよう留意すること」とした。同省保険局は「あくまで民間同士の取引ですが、強制はできないはず」と説明する。しかし、「リース利用を強く推奨された」とする患者は多い。

 そこで、日本慢性期医療協会の会員で、神奈川県と八王子市を中心とした東京・南多摩地区の計30病院に持ち込みの可否を電話で照会した。

 浜口さんの住む神奈川県では、半数以上が「基本的には」「原則として」「事実上」などとして、持ち込みを認めていないと回答。「リース契約をしない場合、入院をお断りすることになる」とした病院も複数あった。これに対し、南多摩地区ではほとんどが「選択できる」。ある病院事務長は「談合ではないが、金額を含め、周りの状況を見て判断している」と話す。

 神奈川県で半数以上の療養病床が事実上、持ち込みを認めないことについて、神奈川社会保険事務局保険課は「通知を順守し、選択権は認めるべきだ。『絶対に認めない』『禁止』という表現を取らないのは、リースを強制できないことを知っている証拠ですよ」と指摘する。

 病院が患者側に積極的にリースを勧める理由はどこも同じで、(1)衛生管理の徹底(2)病院の管理負担の軽減(3)患者さんサービスの向上(4)ご家族の負担軽減ーなど。「むしろ、皆さんには喜ばれている」とする病院もある。

 ≪料金は病院次第≫

 ただ、本当の狙いは別にあると、都内の病院事務長は話す。「療養病床関連の診療報酬はマイナス改定で、経営はどこも苦しい。特に都市部は土地代、人件費が高い。患者から集める保険外負担で病院経営の帳尻を合わせるしかない。苦肉の策です」

 実際にこうしたサービスを提供するのは、病院寝具などを扱う業者。ある大手業者の幹部は「病院側が受ける管理手数料は料金の20%」と明かす。病院間での費用差については、「同じサービスで料金が異なるのは、会社の信用上も好ましくないが、料金設定は病院裁量の部分もあるので…」と言葉を濁し、病院収入の一つとなっていることを否定しない。

 ≪監督機関に相談も≫

 患者側にすれば、強く勧められれば、「お世話になる以上、断りにくい」のが本音。保険外負担を半ば強制されたら、対処法はあるのだろうか。

 神奈川県保健福祉部は「まずは病院側と納得のゆくまで話し合ってください」と助言するが、それで折り合いがつくとはかぎらない。厚労省は「各都道府県の医療安全相談センターや、医療機関を監督、指導する都道府県や社会保険事務局に相談してほしい」と話す。神奈川社会保険事務局は「持ち込みを事実上、禁止しているという実態が確認できれば、注意します」としており、交渉の橋渡しになってくれそうだ。

(2008/08/19)