産経新聞社

ゆうゆうLife

長期療養のおむつ代・寝間着代(下)

保険外サービスを明示した案内板。掲示は義務で、徴収には患者の同意が必要だ


 ■入院セット患者側のニーズも

 おむつ代や寝間着代などの保険外負担は長期療養の高齢者と家族にずしりと重い。しかし、保険外サービスは、病院にとって「診療報酬の穴を埋める“第2の収入源”」なだけでなく、家族の「介護負担から解放されたい」とのニーズで支えられている面もありそうです。(横内孝)

 「病衣貸与代(洗濯代を含む)*希望者のみ 基本セット1日1000円…」

 東京都の療養病床の約2割が集中する南多摩地区。ある病院の受付窓口には、保険外サービスの一覧表が張ってある。「院内掲示は病院の義務。どうです、分かりやすいでしょう」と事務長は説明する。

 この病院では、貸与だけでなく、持ち込みも認める。貸与は現在、入院患者の1割強。以前は全体の半数が貸与を利用していたが、療養病床にいわゆる「ホテルコスト」が導入され、食費・居住費(光熱水費)の負担が増えた2〜3年前から利用者は減った。

 医療相談でも、保険外負担の説明を聞いて二の足を踏む入院・入所相談者が増え、この病院は昨年4月、貸与代を半額にした。この地区では最も低い水準だ。「病院単体の収支では、むしろ値上げをお願いせざるを得ない状況だったが、訪問看護や介護事業などで上がる収益を原資に、値下げに踏み切った」と事務長。そのせいか、入院・入所希望者は1・5倍に増えたが、貸与希望者は増えなかった。「当院は地元の方のご利用が全体の9割。家族が頻繁にお見舞いにくるので、私物を持ち込んで、自宅で洗濯される方が多いんでしょう」

 同じ沿線にある別の病院は都内を中心に関東一円から患者が集まる。寝間着などの貸与代は先の病院同様に低いが、利用者は9割と逆に多い。借りるか持ち込むかは、値段の高低で決まるわけではなさそうだ。病院の担当者は「ご家族が頻繁に面会に来てくれれば、私物で対応できますが、入院期間が長くなると、次第に足が遠のく方が多い。最初はできても、後が続かない」と話す。多くの家族が結局、貸与を選択するという。病院側も「患者の個性や意思の尊重につながる」と、持ち込みを促すが、できる人は限られてくるという。

 業界に詳しい専門家は「療養病床を、お金で解決できる老人ホームとみている家族は少なくない」と指摘する。おむつや寝間着といった「入院セット」に代表される保険外サービスが、高負担でも広がる背景には、病院と家族の一致したニーズも浮かび上がる。

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 ■病院は「住まい」ではない

 慶應義塾大学の田中滋教授(医療経済学) 「医療型療養病床は、医療必要度が高い患者を6割以上入れないと成り立たない診療報酬水準になっている。医療の必要度が低い患者を、老人ホーム代わりに受け入れている病院の経営は苦しいだろう。

 こうした病院は高齢者に『住まい』を提供しているのだから、保険外の自己負担をいただきますとなる。身の回り品の費用は、どこにいてもかかるので、病院を住まい代わりに使っている人は文句は言えない。ただ、料金体系が適切か、選択制があるか、情報がオープンか、はしっかりチェックすべきだ。

 問題は、病院が『すみか』と考えられているところ。高齢者の医療や介護と、住まいのニーズは別の話だ。医療や介護サービスは、だれもが等しく受けられるべきで、病院が住まい代わりにされることで、それが妨げられるようなことがあってはならない」

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 □診療報酬減

 ■人件費を保険外で穴埋め

 病床再編や診療報酬引き下げに直面する療養病床。おむつや寝間着代などの保険外負担について、どこの病院も「病院運営は、診療報酬と患者の保険外負担で賄われている。病院も経営しなければならず、報酬が減れば、その分を保険外に転嫁せざるを得ない。保険外負担は増えることはあっても、減ることはない」と口をそろえる。

 これに対して、厚生労働省保険局は「保険医療機関の経営状況や物価、賃金の動向、経済とのバランス、中医協の議論を踏まえて診療報酬を決めている。昨年6月時点の医療経済実態調査でも、一般病院の医業収支はマイナス6・3%だったが、療養病床が全体の6割以上を占める病院では1・9%で、(療養病床の経営状況は)悪くない」と反論する。

 ただ、都市部では特に介護施設の不足などで需要と供給のバランスが崩れており、療養病床側が患者を選べる状況。都内のある病院長は「最初に締め出されるのは、保険外負担に耐えられない人。『医療は平等じゃないか。許せない』と言われるかもしれないが、元(診療報酬)を絞ればどうなるか、今のわれわれの収益構造をみれば、分かるはず」と話す。

 療養病床を持つ都内のある病院理事長は、こんな将来像を描く。「療養型病院の運営コストの半分以上は医師や職員の人件費。とりわけ、都市部では人件費負担が重く、人材確保も困難。しかし、保険外負担を増やすにも限界はある。いっそ、患者家族に食事介助など、院内介護の一部を肩代わりしてもらえれば、保険外負担を軽くできる。将来的には、設備は病院で、介護は家族でという選択肢もあるのではないか」

(2008/08/20)