産経新聞社

ゆうゆうLife

【ゆうゆうLife】外出したい街づくり 医療と福祉を予防する

 ■「ご近所型福祉」は世直し事業

 近年、各地で盛んになっている朝市は地産地消、新鮮で安全・安価な農産魚介物の提供、農家と住民の交流の場となっている。

 能登・輪島の朝市はもともと地元住民のためのものだったが、今では観光化して有名になった。ある農協の女性は言う。「地域や家庭に居場所ができ、高齢者の外出と生きがいにつながっている」「女性が安心して農業に取り組めるようになった」「早朝の短い時間で消費者と生産者の交流ができ、街づくりの基盤になっている」など。

 街の中の小売店や市場は、売り手買い手相互の顔なじみが多く、住民は相談しながら買い物ができる。人や生活情報の交流の場にもなり、暮らしを支える一種の「福祉コミュニティー」としての性格をもつ。

 しかし、「街の中の少子高齢化」が進み、大手スーパーが郊外に進出したため、商店街は「シャッター街」に追い込まれている。老人ホームやデイなどの福祉施設の郊外進出も目立ってきた。車を運転しない高齢者や子供は、郊外には自由に出かけられない。商店も福祉施設も、歩いて出かけられる距離にあれば、高齢者の外出も容易になる。「八橋ふれあいセンター」(7月30日付参照)もそうだった。

 鳥取県米子市の「笑い通り商店街」では、空き店舗だった元喫茶店が改装され、いつでも気楽に通えるデイサービス、地域交流センター、喫茶店を備えた小規模多機能福祉・商業施設となっている。商店街も高齢者が安心して歩ける「徘徊(はいかい)ロード」とするなど、「ご近所型福祉」に取り組んでいる。

 笑い通り商店街の近くには、障害者が運営する配食・自然食品販売の店や共同作業所がある。地域に住む高齢者の働く場があれば、「福祉商店街」としての意義はさらに深まろう。中国の古事「安居楽業(あんきょらくぎょう)」は「安心して生活し、生業を楽しむ」の意味で、人生の根幹とされる。働くことも福祉の一環である。

 例えば、空き店舗を利用した新型の高齢者作業所が商店街にできれば(団地の集会所などでもよい)、高齢者が家から出るようになり、安否確認もできる。おしゃべりし、手を動かし、提供された弁当を食べれば、健康が維持される。小遣いを得ることで、やりがいができる。米国の企業はこうした事業を支援する。自治体は協力企業名を市の広報紙で宣伝し、学生は就職先選びの目安にする。

 「ご近所型福祉」は街を高齢者福祉につなげる世直し事業である。さらなる展開を期待したい。(神戸大名誉教授 早川和男)

(2008/08/27)