産経新聞社

ゆうゆうLife

【ゆうゆうLife】編集部から 医療者が背負う“十字架”

 ホスピスや在宅ケアで患者の最後を看取(みと)る医療者らは「われわれは十字架を背負っている」と言う。

 「十字架」とは、がんによる心身の苦しみに耐えかねて自ら命を絶った患者のことだ。ある医師は、自宅から患者が姿を消したと家族から知らせを受け、捜していて、先祖の墓前で自殺しているのを見つけた。

 患者の飛び降り自殺を目にした看護師は「落ちていく患者さんを見て、あまりのむなしさにその場で仕事をやめようかと思った」と打ち明ける。

 今回の連載で触れた山梨の介護殺人事件でも、現場近くに在宅ケアを手がけるホスピス診療所があった。医師は「どこかの時点で声がかかっていたら、事件は防げたと思う」と悔しさをあらわにした。

 彼らは「患者のために何が足りなかったのか」と自問自答する。しかし、それが仕事の原動力だという。

 そうはいっても、1年、24時間、患者の急変に備え、悲しみに立ち会う仕事は厳しい。それでも、「一度やったらやめられない」という。理由は「少ない苦痛で逝った患者の家族からの感謝が、何にも替え難い。共同作業を終えたという充実感がある」から。そうした家族との関係は「何年も続く。次は私も、という家族もいる」という。

 こうした話をきいていると、良いケアの循環は地域に根付いていくのだろうか、とも思えるのだ。(北村理)

(2008/08/29)