産経新聞社

ゆうゆうLife

介護と手をとる在宅医療(中)

医療職と介護職が一堂に会するケアカンファレンス。患者や家族が参加することも多い=広島県尾道市


 ■全患者のケア方針を話し合い

 在宅医療で医療職と介護職が連携するには、まだまだハードルがありますが、これを乗り越えて連携を実現させている地域もあります。広島県尾道市では「主治医」を中心に、医療職と介護職がチームで在宅患者と家族を支えるシステムを確立しています。(佐久間修志)

 「だいぶ貧血もよくなったね」。医師の言葉に、梶原まさ子さん(85)=仮名=から笑みがこぼれる。大腸がんを以前に手術し、重度のリウマチを持つ梶原さんだが、病状は安定しているという。義娘の加代さん(54)=仮名=も「ずいぶん元気になったね」と相づちを打つ。

 梶原さんは平成13年11月、自宅で腰椎(ようつい)を圧迫骨折し、市内の病院に運ばれた。梶原さんが自宅療養を望んだため帰宅したが、腎不全もあってそのまま寝たきりに。加代さんは、看護をしながら「これからどうなるんだろう」と不安にかられたという。

 だが数カ月後、不安は解消された。かかりつけ医が「これからのことについて、話し合いましょう」と提案すると、医師、訪問看護師、ケアマネジャー、ヘルパーたちが続々とかかりつけ医の元に集まったからだ。「こんなに忙しい人たちが、わが家のために集まってくれたと思うと心強かった」。話し合いはその後も、病状に変化があるたび開かれている。

 この日の往診前にも、今年3月から続いていた腎性貧血が治療で改善したため、話し合いが持たれた。

 「最近、おしゃべりが少なくなっているような気が…」(訪問看護師)「大丈夫とは思うけど、精神安定剤を減らそうか?」(医師)。それぞれの職種からの意見を聞いていた加代さん。最後に医師から「何かありますか」と聞かれ、「大丈夫です。ありがとうございます」。晴れやかに頭を下げた。

 「何かあっても、みなさんがすぐに集まってくれる。まるで家族と一緒です」。加代さんは今の安心感を、そう表現する。

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 尾道市では、医師会を中心に、在宅患者に医療サービスと福祉サービスを包括的に提供する「地域ケアマネジメント」システムを展開する。市医師会の片山壽会長は「医療も介護も、高齢者を支えるために必要な地域資源。これらをつなげば、病院でなくても、チーム医療が展開できる」と話す。

 このシステムで重要な役割を果たすのが、梶原さんのケースのように、患者にかかわるすべての業種が一堂に会して、ケアの方針を話し合う「ケアカンファレンス」だ。

 ケアカンファレンスは、在宅療養を選択したすべての患者に実施される。また、病院から在宅医療に移る時にかぎらず、病状が急変した時や、患者・家族のニーズが変化したときなど、治療やケアの計画に変更があるときは常に実施される。

 全職種が何度も集まるのは簡単ではないが、「カンファレンスの大事さを、参加するすべての職種が理解している。だから忙しくても、みんながスケジュールを調整する」(片山会長)。その代わり、議題を絞り込むなど、各自が事前準備を徹底。カンファレンスが始まれば、約15分で終えることがモットーだ。

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 尾道市の高齢化率は約29%(平成20年調査)。全国平均の21・5%(19年10月)に対して、高齢化が目立つ。ただ、地域の「強み」は、家庭ごとに「代々付き合ってきた主治医」がいたこと。医師会は主治医に着目。主治医を支えるシステムとして、95年ごろから訪問看護ステーション、老人保健施設、24時間ヘルパーステーションなどを相次いで整備した。

 加えて、介護職を対象に医療に関する研修も実施。介護職が医療に理解を深め、主治医が介護職と連携する仕組みが出来上がった。ケアカンファレンスは全市に広がり、17年にケアカンファレンスを開催した主治医は全体の94・3%に上っている。

 なぜ、違う職種が連携できるのか。片山会長は答える。「もともと患者さんにいいケアをする目的を持って集まったチームですから。連携していい結果が出せて、介護者や患者さん本人から感謝されれば、『多職種協働』が心地よくなってくるんです」

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 ■ケアカンファレンス 診療報酬を付与

 尾道市で行われている「ケアカンファレンス」は、在宅医療の多職種連携に有効な手段として行政も着目。今年度の診療報酬改定で、ケアカンファレンスの実施に、診療報酬がつくようになった。

 診療報酬がつくケースの一つは、入院患者が在宅に移行する際の「退院時共同指導料」。退院するときに、医師が歯科医や薬剤師、訪問看護師、ヘルパーのいずれか3者と連携し、患者のカンファレンスを行った場合、診療報酬がつく。

 また、在宅療養に移った患者の病状が急変した際に、その患者のケアにかかわっている職種が、共同で話し合った場合も、「在宅患者緊急時等カンファレンス料」が加算される。

(2008/09/09)