産経新聞社

ゆうゆうLife

介護と手をとる在宅医療(下)

センターの訪問看護師と在宅患者の状況について話す多田さん(右)。「連携を取れば、外来をしながらも24時間態勢がとれる」=横浜市都筑区


 ■受け皿作りで参入後押し

 医療職と介護職の連携は、顔の見える関係を作り上げることが大事です。しかし、それには時間がかかります。そこで連携の“器”を整える取り組みが注目されています。連携が取れる安心感は、開業医の在宅参入を促す効果もあるようです。(佐久間修志)

 「暑いですね、たんの様子はいかがですか?」

 横浜市都筑区にある集合住宅の一室。医師の真田弥生さん(52)=仮名=は、この部屋に住む横井春江さん(65)=同=に話しかけた。真田さんがのどに通した管からたまったたんを吸い出すと、横井さんが和らいだ表情を見せる。

 横井さんは平成14年に四肢まひとなって寝たきりに。その後も胃ろう処置、肺炎などで入院、18年にはのどに管を通す手術を行ったが、病院から「ここから後は在宅で」と退院を勧められた。

 横井さんは、夫と息子の3人暮らし。夫も息子も仕事があった。「こんな重病人を家で介護できるのか」。不安そうな2人に病院が勧めたのが、「都筑医療センター」だった。同区医師会が設置したもので、ケアマネや訪問看護師、ヘルパーも常駐する。横井さんはここで真田医師を紹介してもらった。

 横井さんは年に数回、熱を出す。呼吸用の管を抜いてしまうこともしばしば。だが、その都度、訪れたヘルパーが異常を見つけ、センターを通じて真田さんが駆けつけた。

 結局、家族が帰ったときに目にするのは、病状の安定した横井さんの姿。「みんなしっかりしている、安心して任せられます」。心配していた夫も、今は在宅チームに信頼を置いている。

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 都筑医療センターは平成7年、区医師会が創設。医師会は翌年から、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、居宅支援センターを次々に併設した。夜中も訪問看護師が勤務し、必要なら担当医に連絡する。医師が個人で24時間態勢を作らなくても、患者の急変に対応できる仕組みだ。

 斉木和夫センター理事長は「熱心な医師が個人的な情熱で維持しているのが、今の在宅医療。だが、それではいずれ疲弊するし、在宅医療に尻込みする医師も出てくる。センターが支援態勢を整えることで、そういった風潮を払拭(ふっしょく)できれば」と話す。

 訪問看護師とヘルパーが同じ部屋に常駐するのもセンターの特色。当初は同じ建物の違う階だったが、1年で“相部屋”に。患者宅を訪問したヘルパーがセンターに戻ると、世間話を含め、患者の情報が行き渡る効果を生んだ。

 都筑区はニュータウン地区で、横浜市内でも比較的、平均年齢が低い。それでも、若い世帯が高齢の両親を呼び寄せるなど、高齢者の姿が目立つようになってきた。センター利用者も重症患者が増えているという。

 昨年度は、センターの訪問看護ステーションの患者で、亡くなった約100人のうち、在宅での看取りが半数を超えた。「本格的な在宅医療が根付いてきている」。斉木理事長は手応えを感じている。

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 センターの存在は、新たに在宅医療を始める医師の背中も押す。昨年開業した内科医の多田博己さん(48)は在宅医療を今年5月に始めた。「何から何まで1人では在宅患者は診られない。センターがあって、在宅に入りやすかったのは事実」と話す。

 患者情報が共有されているのは心強い。今年7月、受け持ちの女性患者が発熱。外来の間も、その患者が気がかりだった。しかし、「担当ヘルパーがいなくても、他の人が情報を把握している。電話一本でその後の状況を知ることができた」という。現在、在宅の受け持ちはその患者1人だが、「外来の様子を見ながら、徐々に増やしていければ」と話す。斉木理事長も「在宅医は不足している。どんな形でもいいから、在宅医療に踏み出す医師が増えてほしい」と話している。

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 ■増えない在宅医 「24時間」に消極的

 都筑区医師会の取り組みが注目される背景には、在宅医のなり手不足がある。

 国は平成18年の診療報酬改定で「在宅療養支援診療所」を創設した。24時間、患者からの連絡に対応することが求められ、診療報酬も高い。

 昨年7月までに1万カ所を超えたが、全国の開業医の1割にとどまっている。あるケアマネジャーは「医療必要度の高い患者さんが、医師が見つからないまま退院して、介護職だけでケアすることもある」と明かす。

 なぜ、在宅医が増えないのか。全国在宅医療推進協会の神津仁理事長は「24時間対応することに消極的な開業医が多い。1人で24時間対応するわけではないが、できなかったら…、と考えてしまうのでしょう」と話す。

 「こうした開業医の負担を減らすための解決策こそ多職種連携」と話す神津理事長。都筑区での取り組みについては「都筑区のようなインフラを地域の開業医が使えれば、在宅医療のすそ野が広くなるのでは」と期待している。

(2008/09/10)