産経新聞社

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どうなる後期高齢者医療(上)


 ■健診の自己負担にバラツキ

 後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が始まって半年あまり。今回は健康診査(健診)の内容と保険料の軽減について2回で解説します。健診では、昨年まで無料だったのに、自己負担が生じたり、メニューが減ったりする自治体も。特に、同じ都道府県内でも、隣接する市区で自己負担が違うと、住民感情も複雑のようです。(横内孝)

 「昨年度までの健診は無料だったのに…」「検査項目が減ったあげく、自己負担も取るなんて、これじゃ、踏んだりけったりだ」

 東京都中野区が4月、区内15カ所で開いた説明会。参加したお年寄りからは不満や戸惑いの声が相次いだ。後期高齢者の健診で中野区が1人500円の自己負担を取ることにしたからだ。同区では昨年度までは、70歳以上の健診は無料。突然の負担増に不満が上がるなか、区の担当者は「受診する方と、しない方の公平を図るため、500円の自己負担を取るよう、広域連合から指導があった」と、理解を求めた。

 しかし、東京都の広域連合を構成する62市区町村のうち、自己負担を取るのは中野区などわずか4自治体。9割以上の市区町村が自己負担を肩代わりした。

 中野区の場合、昨年度までメニューにあった心電図やエックス線検査もなくなった。改善要望も多く、今後、検討課題のようだ。

 厚生労働省は昨年度まで老人保健法にあった40歳以上の基本健康診査を廃止。今年度からは高齢者医療確保法に基づき、40〜74歳を対象にした「特定健康診査」と、75歳以上の健診に分けた。ただ、75歳以上を対象にした健診は都道府県広域連合の「努力義務」。市町村や企業の健康保険組合など保険者に義務付けた「特定健診」に比べ、拘束力が低い。全47広域連合が実施を決めたが、先行きは不透明だ。

 後期高齢者の健診メニューは特定健診の基本項目と同じ。違うのは、腹囲測定がない点。ただ、独自に検査項目を上乗せした広域連合、市町村もある。

 自己負担はどうか−。関東1都6県と近畿2府4県を調べたところ、13都府県のうち6府県が全域で無料。奈良県の広域連合は、受診者1人当たり500円、和歌山県は600円の自己負担を求めたが、一部は自治体が肩代わりし、同じ保険者内でも、給付に差が生じた。

 自己負担を取る自治体の多くが挙げる理由は「(40歳以上の)特定健診も有料だから」。自己負担を肩代わりした自治体では、「これまでの(高齢者の)健診も無料だったから」という理由が多い。

 健診の財源は主に、保険料と国からの補助金。厚労省は健診費の「3分の1程度を補助する」との方針を示した。自己負担を取るかどうかは自治体判断だ。

 同じ都道府県内でも、自己負担の差があることについて、厚労省は「今までの健診でも、自治体間で違いはあった。自己負担を取るかどうかはあくまでも広域連合、区市町村の判断」と説明している。

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 ■早生まれは受診困難

 地域差は自己負担だけではない。誕生日による受診格差もある。来年3月に誕生日を迎える大阪府内の男性(74)は「6月に75歳になった妻は8月に健診を受けた。(私は)早生まれというだけで、今年度の健診が受けられないのは納得がいかない」と窓口で憤ったという。

 後期高齢者の健診は年1回で、対象は「75歳以上の被保険者」。特定健診の対象は、厚労省の省令では「当該年度に40歳以上74歳以下の年齢に達する者」。3月に75歳になるこの男性は、どちらにも入らず、今年は自治体健診が受けられない。

 苦情を受けた大阪府は、来年2月生まれの人まで、今年度中に受診できるようシステムを改修したが、男性のように、来年3月に75歳になる約6000人の健診は来年度に先送りした。同様のトラブルは各地で起きており、和歌山県と徳島県でも来年3月に75歳になる人の健診は21年度以降になるという。

 制度に“すき間”ができた格好だが、厚生労働省は新制度移行前の保険者が保健事業で健診を実施する道を示し、対応を自治体に一任。関東のある広域連合の担当者は「国の制度設計上の欠陥。制度のハザマにいる人を独自に救済する自治体や、財政上の理由で対応を見送る自治体など、対応はさまざま」と批判する。

 広域連合や自治体の批判を受け、厚生労働省は見直しに着手。早ければ、来年度には特定健診の対象者を「75歳以下」に変更する方向で調整している。

(2008/10/09)