産経新聞社

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どうなる後期高齢者医療(下)


 ■保険料、7割減から8・5割減に

 75歳以上を対象にした後期高齢者医療制度(長寿医療制度)をめぐる混乱が続いています。見直し論が後を絶たず、廃止を含めた議論も巻き起こっている状況です。政府・与党が6月にまとめた保険料の新たな軽減措置について、山梨県を例にポイントを整理しました。(横内孝)

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 「同じような通知が何度も届くので、頭が混乱してしまう」

 山梨県内で1人暮らしをする元農業、名取道子さん(77)=仮名=に9月上旬、後期高齢者医療保険料の変更決定通知が届いた。政府与党が決定した負担軽減の対象者に送付されたものだ。

 名取さんは実は、1カ月ほど前に似たような書類を受け取ったばかり。改めて見比べると、先の通知には、保険料は10月に2110円、12月と2月は1900円と書かれていたのが、新しい通知では、10月から2月まで「0円」が並んでいた。被保険者一人一人が定額で払う「均等割」が7割減の年1万1610円だったのが、8・5割減の年5700円に下がったのだ。

 名取さんは「文字が小さいし、専門用語も多い。内容がさっぱり分からない」と嘆く。不安になって、市役所に確認し、今年はもう保険料を払う必要がないと知った。

 昨年度、名取さんが国民健康保険で納めた保険税(料)は2万9200円。それに比べると、負担は一挙に5分の1以下になった。「年50万円ほどの年金で暮らしているから、保険料が安いのは本当に助かる」という。

 山梨県後期高齢者医療広域連合によると、県内被保険者の約4割は、新たな軽減策で8・5割減の対象者。農業、保坂信さん(79)=仮名=もその一人だ。高血圧と前立腺肥大の持病があり、月に1、2回、病院で診察を受ける。「病院にお世話になる以上、保険料を払うのは当然の務め。みんな騒ぎすぎじゃないの。あまり安いようだと、申し訳ないね」と話す。

 夫に死に別れ、遺族年金で暮らす宮沢重子さん(78)=仮名=も8・5割減で、年間保険料は5700円。「保険料が下がるのはいいですが、これだけ下がると、どこかで補わなきゃならない。代わりに消費税とかが上がるんじゃないかと心配ですよ」と、先行きに不安をにじませている。

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 ■新たな軽減措置で複雑に

 後期高齢者医療制度の保険料は「均等割」のほか、前年所得にかかる「所得割」の合計で決まる。名取さんの保険料負担は均等割だけだが、所得が一定以上になると、所得割の負担も生じる。

 政府・与党は今年6月、保険料の新たな減免策を打ち出した。柱の一つは均等割の軽減=表上。現在の7割軽減を8割5分に広げるもので、約470万人が対象。名取さんらが対象になった施策だ。軽減は、世帯収入(世帯主と被保険者の収入)で判定される。単身なら年金収入が168万円以下、夫婦ともに年金がある場合は、妻の年金が135万円以下で、世帯の年金収入は300万円以下ならOKだ。

 名取さんのように、保険料が天引きされていた人は、8月までに今年度の保険料を納めた計算になり、10月から天引きはない。納付書で納めている人も同様だ。

 来年度はこのうち、基礎年金(年間79万2100円)だけで暮らす人など、所得が低い約270万人について、軽減幅を9割に広げ、それ以外の人は再び7割に戻す見込みだ。

 減免のもう一つの柱は、所得割の軽減=表下参照。こちらは、被保険者収入で判定される。対象者は、年金収入が153万円超〜211万円以下の被保険者約90万人で、所得割の負担を一律5割減にする。来年度は2割5分〜10割の4段階に変える案を軸に検討を進めている。

 保険料の軽減に加え、年金からの天引き対象外の人を増やす。これまでは、年金収入が年額18万円未満の人だけだったが、今後はこれ以上でも、口座振り替えが可能。ただし、▽新制度への移行前2年間に保険料(税)滞納がなかった▽年金収入が180万円未満の被保険者で、本人に代わり、世帯主や配偶者が口座振り替えで保険料を支払ってくれる場合ーが対象。保険料を納める人がかわれば、納めた人の社会保険料控除になるなどで世帯の課税額が減るケースもある。区市町村などに確認が必要だ。

 政府与党が改善策を発表して3カ月余り。だが、冒頭の名取さんのように、度重なる「保険料決定通知」で異なる保険料を示された高齢者からは、自治体への問い合わせが後を絶たない。関東のある自治体の担当者は「スタート時の混乱は6月ごろには収束したのに、国は新たな軽減措置を打ち出して制度を複雑にし、寝た子を起こしてしまった。混乱したお年寄りに説明するのは、いつも我々の仕事だ」と憤懣(ふんまん)やるかたない様子だ。

(2008/10/10)