産経新聞社

ゆうゆうLife

【ゆうゆうLife】医療・介護 長期入院をどうする 療養病床再編(上)


 ■「新型老健」進まぬ転換

 骨折や脳梗塞(こうそく)などをきっかけに、寝たきりとなった高齢者などが長期入院する「療養病床」。厚生労働省は医療費削減のため、全国に約35万床の療養病床のうち、介護保険が適用される介護型療養病床約12万床を平成23年度末までに全廃し、介護施設などに転換する計画です。その主な受け皿として昨年5月、「介護療養型老人保健施設(新型老健)」がスタートしました。しかし、転換は半年間で、わずか10施設。何が転換を妨げているのでしょうか。(篠原那美)

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 昨年7月、療養病床をもつ北海道のある病院が、新型老健に生まれ変わった。

 もともと医療型療養病床51床、介護型療養病床100床をもち、長年、地域の高齢者医療を支えてきたこの病院。

 国が介護型療養病床を23年度末に全廃する決定をしたことを受け、介護施設や高齢者住宅などへの転換を検討してきた。

 「入院患者の大半は介護度が高く、医療処置を日常的に必要とする人ばかり。患者をそのまま受け入れるには、(老人保健施設より)医療ケアの充実した新型老健への転換が適切だと考えた」と関係者は話す。

 入院するほどではないが、夜間のたんの吸引や、胃に直接、栄養を入れる「胃ろう」などを必要とする高齢者のための介護施設。それが新型老健だ。厚労省は「従来の老人保健施設に比べても、夜間看護や終末期の看取(みと)りなどに対応できるよう、医療機能が充実している」と説明するが、あくまでも「介護施設」。「病院」ではないので、医師の配置は手薄だ。

 北海道のこの施設も、従来は常勤の医師が3人おり、夜勤にも対応した。しかし、転換後は常勤医が1人になり、夜間は看護師だけとなった。

 「夜、医師がいなくても大丈夫なのか」。転換前に開かれた説明会では、患者や家族から不安の声が寄せられたという。「実際、開設から2カ月間は、体調が急変し、系列病院に転院する入所者が20人弱に上った」と関係者。新型老健としてスタートしたが、ふたを開けてみると、医療の必要性が高い「医療区分2」の入居者が半数近くを占め、要介護度も8割以上が「4」か「5」。

 本来、「医療区分2」や「医療区分3」の人は、医療型療養病床に残すのが国の方針。新型老健の入居者は「医療区分1」が前提だから、介護報酬は従来の療養病床に比べ、約2割低く設定されている。

 しかし、“看板”を掛け替えても、重度の人が多ければ、施設の負担は重い。患者に転院を促すのも難しい。職員はこう打ち明ける。「看板は『介護施設』だけれど、入所者の実態は『病院』にかなり近い」

 この施設では、人件費を圧縮するため、看護師、介護士合わせて14人を削減。ベッドも24床減らした。よりよいケアを目指し、国の基準よりも手厚く配置するが、スタッフの負担は以前より重くなったという。

 「中長期的に経営状況を予測すると、先行きに強い危機感を持たざるを得ない」。厳しい船出に現場から困惑の声が上がる。

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 厚労省の調査によると、昨年10月までに、療養病床から新型老健に転換した医療施設は、全国で10施設(575病床)にとどまっている。

 介護型療養病床をもつ医療施設(26道府県、計約5万7000病床分)を対象に、23年度末までの転換先の形態をたずねた調査でも、新型老健への転換を検討する施設は、病床ベースで29%。

 転換が進まない背景について、都内に療養病床をもつ病院関係者は「現状の介護報酬では経営が成り立たない。様子見の病院が大半なのでは」と話す。

 転換先を「未定」とした回答が28%に上ったことから、厚労省は「報酬を上げれば、転換も進む」と判断。来年度の介護報酬改定で、医師や夜勤職員を手厚く配置した施設への加算を、社会保障審議会の分科会に提案している。

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【用語解説】療養病床再編

 リハビリ用を除く約35万床(平成18年10月現在)ある療養病床を再編成する計画。介護保険適用の介護型約12万床は23年度末までに全廃。医療保険適用の医療型約23万床は、24年度末までに約22万床まで削減する。厚労省は、療養病床入院患者の半分近くは、治療の必要性が低いにもかかわらず、長期入院する「社会的入院」とみており、介護施設や在宅療養に移すことで医療費の抑制を目指している。削減した病床は、新型老健などに転換するため、医療・介護全体でのサービス量は変わらないと説明する。

(2009/01/05)