産経新聞社

ゆうゆうLife

【ゆうゆうLife】医療・介護 長期入院をどうする 療養病床再編(中)

自室に絵を飾り、ホームでの生活を楽しむ長井さん(左)。徒歩3分のところに住む長女(右)も「ここなら、いつ発作が起きても対処してもらえるので安心」と、ホームに信頼を寄せている


 ■病院が手がける高齢者住宅

 療養病床の転換を促すため、厚生労働省は一昨年、医療法人による有料老人ホームや高齢者専用賃貸住宅(高専賃)の経営を解禁しました。医療ケアの充実した高齢者住宅は、寝たきりや看取(みと)りにも対応してもらえる「終(つい)の棲家(すみか)」として人気があり、急性期病院を退院した人の受け皿としても活用され始めています。(篠原那美)

 広島市佐伯区の閑静な住宅街。JR五日市駅から徒歩3分の場所に「グランホームあさひ」はある。「介護と医療が一体となった有料老人ホーム」。そんなふれこみで、平成18年1月にオープンした。

 内科の急性期病院として地域医療を支えてきた原田病院(120床)が4年前に新築移転。空き屋になった旧病院の建物活用が検討され、介護付き有料老人ホームへ転換することに。当時はまだ、医療法人による有料老人ホームの経営が認められておらず、同病院の関連会社が運営する形をとった。

 「具合が悪くなっても、看護師さんがそばにいるし、すぐに病院に連れて行ってもらえるから安心ですよ」。そう話すのは、オープン当初から入所している朝倉ともさん(84)=仮名。

 朝倉さんは要介護1。3年前、持病の糖尿病が悪化して腎不全を発症。当時、1人暮らしをしていた呉市では、病院がどこも満床だったため、長男夫婦の住む佐伯区の同病院に入院した。

 透析治療の後、退院できるまでに回復したが、認知症が進み、インスリンを自力で注射できなくなっていた。

 長男の妻は「私たちの自宅に引き取ることも考えましたが、家族では注射の管理ができなくて…。行き場に困っていたところ、『グランホームあさひ』の開設を知り、入居を決めました」と振り返る。

 食事、入浴、排泄(はいせつ)などの日常生活を24時間、介護士がサポートしてくれる。施設には午前7時〜午後8時半まで看護師が滞在し、投薬や健康管理を行う。医師は常駐しないが、同病院だけでなく、外科、歯科、耳鼻科など地域の診療所とも連携し、入所者は無料送迎車で通院できる。

 60室はすべて個室。家賃、管理費、食費(1日3食)を含めた1カ月あたりの諸費用は約12万〜22万円。入居一時金も約23万〜51万円と手ごろな設定だ。

 「経営は決して楽ではない」(病院関係者)というが、重本憲一郎院長は「グランホームあさひが、原田病院の退院患者の受け皿として利用され始め、病院の入院患者の平均在院日数は4日間短縮され、病床回転率も高まった」とする。ホーム開設は、病院にとってもメリットがあったというわけだ。

 同病院でも以前は、急性期治療を終えても、家族が面倒を見られないなどで、何年も長期入院する患者が少なくなかったという。「療養病床や老健施設にも、空きはない。ならば自前の施設を持とうと考えた。病院との連携が十分なら、ホームでも医療依存度の高い高齢者はケアできる。医療法人が運営するホームは、療養病床にいる長期入院患者の受け皿になる可能性はあると思う」と重本院長。

 施設長の白石順子さんは「ここは入所者にとって、“終の棲家”。生活を楽しむ場所です」と話す。

 ぜんそくを患っている長井剛さん(87)=仮名=は要支援2。部屋を訪ねると、絵画や陶芸、書道の作品があちこちに飾ってあった。ホームのレクリエーションで作った作品だ。

 長井さんはホームでの暮らしについて、こう話す。「ここでは、自宅にいたときのように、いつ発作が起きるかビクビクしなくてもいい。安心感のせいか、入所して10キロも太ってしまったよ」

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 ■「専用賃貸住宅」も注目

 介護付き有料老人ホームのほか、医療ケアの充実した高齢者専用賃貸住宅(高専賃)も、療養病床の転換先として注目を集めている。

 一昨年4月、東京都葛飾区にオープンした高専賃「ココチケア」は、地元の医療法人「明正会」の関連会社が運営。ヘルパー資格のある管理人が24時間常駐しているほか、同じ建物の1階には「在宅療養支援診療所」「訪問看護ステーション」があり、看護師は24時間体制、医師も週4日は当直し、入居者の急変に備えている。

 60歳以上であれば、誰でも利用でき、現在、夫婦での利用を含め、31室に32人が入居。健康で自立した人もいるが、大半は「入院治療の必要なし」と、一般病院や療養病床から退院を求められた人たちだ。経管栄養や在宅酸素療養など、医療や介護の必要度が高い人も多いという。

 「あくまでも賃貸住宅なので、入居者の自由度が高いのが特徴。介護も医療も、明正会のサービスに限らず、入居者が自分の選択で外部の事業者と契約できます」。明正会の近藤正明理事長は、介護付き有料老人ホームとの違いについて、そう話す。

 療養病床再編は、社会的入院患者を介護施設や在宅療養に移す流れだが、近藤理事長は「今の時代、介護を家族だけに背負わせるのは不可能」とみている。

 「みそ汁の冷めない距離に、医療ケアの充実した高専賃があれば、高齢者の生活も、家族の生活も守られる。今後、各地で診療所を営む医師らと連携し、医療サービスの充実した高専賃を増やしていければ」と話している。

(2009/01/06)