産経新聞社

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子供と暮らしたい−障害児家庭への支援(上)

重度の障害児を一時預かりでケアする小林拓也医師(中央)らスタッフ=横浜市金沢区


 ■「日中預かり」で在宅維持

 医療の進歩で、助けられなかった赤ちゃんも救えるようになり、障害児の数も増えています。医療ケアの必要な重度の心身障害児向けのサービスは少なく、入退院を繰り返したり、施設に頼る子供も多いようです。横浜市では、ある小児科クリニックが行うデイサービスを軸に、障害児家庭の支援に取り組んでいます。全国でもめずらしいこの事業を通し、障害児家庭の在宅支援を考えます。(北村理)

 横浜市に住む大木徳男さん(47)=仮名=の長男、達夫君(11)=同=は先天性の重度の心身障害児。酸素吸入が必要で、食事は腸に直接、栄養剤を送り込む。

 体調のよいときでも、昼夜を問わず2〜3時間に1回、体調が悪ければ、深夜でも1時間おきにオムツを替える。体位変換、酸素吸入やたんの吸引など、24時間のケアが欠かせない。

 大木夫妻は2人とも教員だったが、「夜間に休めず、夫婦共倒れになるおそれがあった」ため、「疲労で、満足した教員生活を送れなくなった」と感じた大木さんが、事情を理解してくれる職場に転職した。

 今、大木夫妻の介護生活を主に支えるのが、同市金沢区にある「能見台こどもクリニック」に併設された日中一時支援施設「輝きの杜」だ。

 「輝きの杜」はクリニック2階にあり、広いバルコニーから明るい日差しが差し込む。子供たちはベッドやフロアで横になり、午前9時から午後5時まで、医療ケアや入浴はじめ、食事介助や健康状態のチェックを受ける。

 達夫君は週4日、出勤する大木さんに連れられ、ここに通う。うち2日は、さらにここから養護学校に通い、放課後は再び、「輝きの杜」に戻って家族の迎えを待つ。学校への送迎は施設側がしてくれる。

 クリニックが休診の木曜日は施設も休み。達夫君は家で訪問看護ステーションから看護師の派遣を受けて過ごす。

 ケアにあたるのは、重度の障害児の専門家である小林拓也院長と、2人の看護師、4人の介護職員の計6人。利用登録をしている障害児は現在、約70人で、日に最大19人をケアする。

 大木さん夫妻は仕事をやりくりしながら、達夫君をケアする。「共働きをやめ、たとえば私が介護に専念すれば、夜も眠れないから早晩、倒れる。私が倒れたとたん、妻も結局、働けなくなり、達夫を施設に預けっぱなしにせざるを得なくなるでしょう。それでは、家族は破綻(はたん)です」という。そのうえで「達夫を家で抱え込めば、達夫は他人の世話に慣れることができない。施設や訪問看護で他人の世話になることは、子供の将来を考えたとき、不可欠だと思っています」。

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 ■行き場ない重症児

 大木さんが日中利用する「輝きの杜」は、障害者自立支援法による「日中一時支援施設」だ。

 日中一時支援事業は、福祉施設が医療ニーズの比較的低い知的障害者を対象にするケースがほとんど。このため、重度の心身障害児は行き場所がないのが現状だ。

 診療所が取り組むのは全国的にもめずらしい。小林医師は平成11年のクリニック開業当時から、親の要望を受け、ほぼボランティアで障害児を預かり始めた。「日中一時支援事業」ができたのは、後になってからだ。

 この事業には補助金がつくが、厚生労働省は「事業を必要とする自治体が地域の実情に応じて、それぞれの裁量で実施してほしい」。運営基準はもとより、事業の有無も地域によってまちまちだ。

 横浜市では、利用は「4時間」「8時間」「8時間以上」の3区分。利用者負担は基本単価の1割で、1日あたり約200円〜約600円。さらに横浜市から施設に、日に1人5000円から1万5000円が加算分として支払われる。

 小林医師は「達夫君のように、医療依存度の高い子供を抱えるご家族の負担は大きく、頻回の利用が必要だ。しかし、国や自治体の補助は、医療ケアが必要な重度の心身障害児を想定したものではない。医療ケアを行う人件費分が、施設側の持ち出しになっている」と指摘する。

 こうした状況について、横浜市障害児福祉保健課は「市内では過去7年間で、重症心身障害児・者の人数が35%増加している。8割が在宅だが、障害者をみられる診療所が足りず、患者が集中する診療所に負担が生じている」と分析する。同課は「自治体としても今後、障害児・者を診られる人材を育成し、家族の負担も、診療所の負担も軽減することが必要と考えている」としている。

(2009/01/26)