産経新聞社

ゆうゆうLife

子供と暮らしたい−障害児家庭への支援(中)

修学旅行で水族館を楽しんだ雄一君(金沢養護学校提供)


 ■学校と施設の連携に注目

 横浜市で行われている重度の心身障害児の日中一時預かり(デイサービス)は、家族の介護負担の軽減になるだけではありません。入退院を繰り返す子供を、日常的にサポートすることで、子供の入院が減る思いがけない効果も出ています。医療費増や、病院の慢性的なベッド不足を考えると、自治体にとっても注目すべき施策のようです。(北村理)

 横浜市に住む木村雄一君(12)=仮名=は先天性の重度の心身障害児。呼吸力が弱いため、気管切開をしており、食事は経管栄養。体が緊張すると、骨折することもあるという。

 以前は肺炎などで年に7、8回は救急搬送されていたが、ここ2年ほどはそれも2、3回にとどまっている。母親のゆき子さん(41)=同=は「最近、熱が出ても、あわてなくなりました」という。

 雄一君は週3回、近くの日中一時支援施設「輝きの杜」に通う。クリニックに併設された重度の心身障害者のためのデイサービスで、医師や看護師が常駐する。ゆき子さんは雄一君を預けると、家事やほかの3人の子供の世話に時間を割く。夕方、迎えに行くと、看護師らからその日の健康状態を聞く。夜間の発熱があっても、電話をすれば、看護師が対応してくれる。

 「これまでは夜、急な熱が出ると、雄一がこのままどうにかなってしまうのではないかと、あわてて救急車を呼んでいました。でも、『輝きの杜』に預けるようになって、2日に1度は看護師さんから話が聞けるようになり、私も体調の見極めがつくようになりました。入院すると、1回数十万円単位でお金もかかるし、何より精神的な負担が大きい。本当に『輝きの杜』には感謝しています」

 自信がついたゆき子さんは昨年、雄一君が通う神奈川県立金沢養護学校に、修学旅行への参加を申し出た。養護学校の校外活動は、親が同行するのが一般的。しかし、雄一君は母親の同行なしで参加した。水族館見学などを楽しんで、夜はケアも必要なく、ぐっすり眠ったという。

 ゆき子さんは「ほかの子と同じように旅行を楽しんだと聞いて、信じられない気持ちでした」と喜ぶ。

 背景には、学校と施設の連携がある。「輝きの杜」の小児科医、小林拓也さんは金沢養護学校の校医でもある。数カ月前から学校側に働きかけ、消化器に負担をかけないような栄養注入の方法も教えた。小林さんは「雄一君のケースに限らず、校医として月1回の巡回指導だけでなく、日常的に学校などで勉強会も開いています。先生方に障害児の食事のさせ方について学んでもらったり、個別ケースについての相談も受けます。医療者と学校の連携はどこでも可能だと思います」と話す。

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 ■ベッド不足解消にも

 神奈川県で、重度の障害児の入院拠点となっている県立こども医療センターの小坂仁医師は「金沢区にいる障害児の入院は近年、目に見えて減少している」と評価する。

 こうした実績を経て、病院・診療所と家庭の連携が改めて注目を浴びている。障害児の入院が減れば、医療費の削減やベッドの確保にもつながるからだ。ベッド不足、施設不足に悩む横浜市は昨年、重度の心身障害児のための医療機関の連携を検討する会で報告書をまとめ、「日常的な一次医療を受け持つ診療所・クリニックの充実・拡大」を挙げた。

 在宅支援の第一歩として今年から始まったのが、看護師を対象にした、3カ月の「小児訪問・重症心身障害児者看護研修会」。内容は、障害児の在宅ケアや、医療機関との連携。受講者は訪問看護ステーションの看護師を中心に、定員の倍にあたる約100人に上った。

 同市障害児福祉保健課は「潜在ニーズを感じている参加者が多いようです。今後、医師の研修も実施し、土台づくりをしたい。連携のなかで、子供たちが家で暮らせるようになれば、ベッド不足の解消にもつながる」。地域で重度の障害児ケアができるようになれば、いずれ、一時預かりをする施設も出てくる。そうすれば、市全体で金沢区のような入院減少も期待できる。

 小林医師は「医療ニーズの高い障害児は、福祉施設などでも敬遠される傾向にある。このため、家族にとっては、抱え込むか、入院させるかの選択しかなかった。重度の障害児を診る診療所が増えて、学校や施設と連携すれば、障害児は地域で暮らせるようになる」と指摘している。

(2009/01/27)