産経新聞社

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医療・介護 病院を出される(2)入る施設が見つからない

妻は自分で起き上がれず、ベッドに横たわって過ごす。夫の生活は介護一色に=千葉県



 大学病院や総合病院で急性期の治療が終わると、退院を求められます。老老介護などの事情で、自宅での療養に限界を感じても、慢性的に医療の必要がある場合、行き場を探すのが困難。「施設に入れない」「ショートステイ(短期入所)が利用できない」などの声が聞かれます。患者や家族の在宅療養への不安が募ります。(寺田理恵)

 千葉県に住む山本貴美子さん(78)=仮名=は、やけどで今月初めまで約2カ月入院した後、歩けなくなった。夫の弘志さん(76)=同=が付きっきりで介護に当たる。

 息子も娘も住まいは他県。自身も高齢の弘志さんは“共倒れ”を恐れる。「妻が最初に倒れて7年になります。今は夜に2回、トイレに連れていかないといけないので、寝ていられない。私が倒れたら、だれが妻をみるのか…。共倒れを避けるために、短期間でも施設に入所させたい。ですが、入退院を繰り返す妻を、受け入れてくれる施設が見つからず、困っています。短期の利用も難しそうです」

 入浴などのために週4回訪問看護を利用し、週1回の通院時は、弘志さんが貴美子さんを抱えるように車に乗せ、運転して連れていく。弘志さんは「いつまで運転を続けられるか」と不安を感じる。

 貴美子さんは平成14年に脳梗塞(こうそく)で倒れ、要介護2の認定を受けた。歩行が不安定なのに加えて、軽い認知症状もあり、17年に神経内科で難病の正常圧水頭症と診断された。以来、薬を飲み、3カ月に1度、髄液を抜くため1週間ほど入院しなければならない。手術で改善する可能性はあるが、本人がいやがった。

 弘志さんは昨秋、貴美子さんにリハビリを受けさせたいと、自宅近くの介護老人保健施設(老健)に入所を申し込んだ。貴美子さんは要介護度が重くないため、待機者の多い特別養護老人ホーム(特養)には入れない。老健の入所は「数人待ち」と聞いて連絡を待ったが、「入所しても、入院すると退所扱いになる」などの理由で断られた。

 そうこうするうち、貴美子さんがやけどで入院。病院に老健への入所を相談すると、「貴美子さんは薬代がかかるから、難しいのでは」と指摘された。自宅に戻るほかなく、弘志さんが励まして自宅内を歩く練習を繰り返させた。その結果、起こせば、何とかトイレまで行けるようにはなったが、ふらついたり、転んだりするので目が離せない。

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 ■敬遠される医療ニーズ

 核家族化で、老老介護や、高齢者が昼間ひとりになるなど、家庭の介護力が低下している。治療を終えても、退院に不安や疑問を抱く患者や家族は少なくない。

 「ここ2、3年、『退院を求められている』という糖尿病患者の家族から相談が増えています」。こう話すのは、医療相談を受ける民間会社「楽患ナース」(東京都)の医療コーディネーター、岩本ゆりさん。

 例えば、糖尿病の50代男性は、高血糖で倒れて救急搬送され、失明した上に、下肢を切断して車いす生活となった。退院が決まったものの、昼間は家族が家におらず、ひとりではインスリンが打てない。家族は「病院にずっと置いてほしい」と望んだという。

 しかし、医療ニーズの比較的低い人を受け入れる病院は減っている。かといって、そうした人の受け皿となる在宅医療や介護サービスが整備されているわけでもない。

 介護療養病床の23年度廃止で、介護保険施設の中では、老健が医療ケアの必要な人の受け入れ先として期待されている。病状の安定した人にリハビリや看護を提供し、在宅復帰を支援する施設で、特養より医師や看護師などの配置が手厚い=表。ところが、現状は必ずしも医療を必要とする人の受け皿となっていない。

 入所者の日常的な医療費は、老健が受ける定額の介護報酬に含まれている。入所者が外部の医療機関を受診できるケースは限られており、医療費がかさめば、老健には“持ち出し”となる。貴美子さんの場合、「薬代がかかるからでは」と聞かされたのは、このためだ。

 また、老健も含めた介護保険施設数は、地域によって偏りがあり、首都圏では特に少ない。厚生労働省の調査では、65歳以上人口10万人当たりの介護保険施設の定員(平成19年10月1日現在)は最も多い徳島県が4550人なのに、東京都は2219人、神奈川県は2497人、千葉県は2526人にすぎない。

 龍谷大学の池田省三教授は「老健には、本来の役割を果たす所と、特養のように長期入所させる所がある。第二特養と化した所は、医療に手のかかる高齢者を引き受けたがらない」と指摘する。その上で「療養病床の削減で行き場のない人が増えているという指摘もあるが、老健をはじめ、高齢者の医療機関はもともと偏在している。特に首都圏で不足しており、配置の適正化が必要だ。ただ増やせばいいというのではなく、むしろ在宅介護サービスの効率的な提供を図り、在宅医療の充実を急ぐべきだ」と話している。

(2009/02/24)