産経新聞社

ゆうゆうLife

退院後はどこへ(下)医療も可能な「終のすみか」

医療ニーズに対応する有料老人ホーム。入居者には住宅酸素療法を使う人や末期のがん患者も=東京都足立区の「ようせいメディカルヴィラ」


 入院日数の短縮化と医療の進歩で、高齢者が医療器具をつけた状態で退院してくる。在宅酸素療法を使う人や、痛みのコントロールが必要な末期のがん患者など、入院治療が終わっても医療を必要とする人を、どう支えるのか。退院後も、切れ目のない医療を受けられる態勢が求められる。(寺田理恵)

 東京都足立区の介護付有料老人ホーム「ようせいメディカルヴィラ」は昨年、オープンした。医療法人容生会が経営し、医療ニーズに対応できるのが特徴だ。

 同ホームで暮らす古関志津江さん(77)=仮名=は、要介護度こそ2と軽いが、間質性肺炎で酸素が十分に取り込めず、息苦しくなる。そのため、濃縮した酸素を吸入する在宅酸素療法を使う。

 都内の自宅で暮らしていたが、夫を亡くし、同居の家族は働いているので、昼間はひとり。再発して2カ月間の入院を機に昨年9月、同ホームに入居した。

 「娘が私のために有料老人ホームを10カ所も見学してくれました。けれども、呼吸器の病気を受け入れてくれる所は、こちらのほかには入居金が1億円も必要な所しかなかったらしいのです」と話す。

 同ホームは入居一時金が360万〜840万円(末期がんを除く)と比較的安いこともあるが、1階に入院用ベッドを備えた有床診療所があり、医療体制が整備されているのが決め手だった。診療所では看護師2人以上が夜勤をしており、ホームの入居者が急変すると、診療所の看護師が駆けつける。

 医療法人には認められなかった有料老人ホームの経営を、国が解禁したのは平成19年。療養病床の削減などで退院が早まっている高齢者への受け皿として期待される。

 末期のがん患者も痛みのコントロールに麻薬を使う場合、受け入れ施設が限られる。同ホームにはこうした入居者も多く、1階の有床診療所に入退院を繰り返すケースもある。

 15年前から足立区などで在宅医療を行ってきた増田勝彦・容生会理事長は「本当の終(つい)のすみかを作りたかった。家でみるのが一番いいが、家族がギブアップしてしまうことがある。どこかで受け皿が必要だ」と話している。

                   ◇

 ■病院との連携不可欠

 「導尿の管や人工ぼうこうなど、医療器具をつけたまま退院してくる」(ケアマネジャー)「末期がんなのに腸ろうにして帰された」(患者家族)

 高齢の患者も医療的な管理が必要な状態で急性期病院を出てくる。胃ろう、在宅酸素療法のほか、医療器具の進歩で、人工呼吸器や高カロリー輸液を大静脈に注入する中心静脈栄養(IVH)を使う人も、自宅で療養する時代となった。

 「退院できるとは思えない状態の患者でも、ひとり住まいや高齢夫婦だけなど家庭の状況におかまいなく帰ってくる」。こう話すのは、北関東で病院や介護老人保健施設(老健)などを運営する友志会理事長の正岡太郎医師だ。

 友志会の老健では、医療の必要な要介護高齢者を受け入れている。管で栄養を摂取する経管栄養となった高齢者に対して、管を外して自宅に戻れるようリハビリに努めてきたが、「医療ニーズの高い人が増え、経管を外すのが追いつかない」(正岡理事長)事態だ。こうした人々を在宅で支えるため、昨年10月に在宅療養支援診療所を開設したところ、患者が急増した。

 正岡理事長は「急性期病院から在宅介護に移るときに連携がとられず、退院する患者の家族が『ケアマネさんを探してください』と求められる事例もある。在宅を支えるチームが病院に入っていく必要がある」と指摘している。

(2009/05/13)