産経新聞社

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肺炎球菌ワクチン 公費助成で医療費減も 


 ■新型インフル流行前に高齢者は接種を

 「秋の新型インフルエンザ大流行の前に高齢者は接種を」と、肺炎球菌ワクチンがにわかに注目を浴びている。高齢者はインフルエンザにかかると肺炎を併発しやすく、死亡率も高い。新型インフルエンザでも構図は同じとみられるからだ。高齢者の肺炎死亡を減らそうと、ワクチン接種に公費助成をする自治体からは入院患者の減少で医療費減につながったとの報告も出ている。(佐藤好美)

 ◆肺炎死3分の1に

 長野県波田(はた)町は松本市に隣接する人口1万5千人の町。3年前、肺炎球菌ワクチンの公費助成を始めた。町に助成を働きかけた波田総合病院の清水幹夫救急総合診療科長は、ワクチンの成果を身にしみて感じている。

 「ワクチンへの公費助成を始める前は、冬季の入院ベッドはインフルエンザから肺炎を併発した高齢者でいっぱいで、町立病院なのに救急患者をよそに搬送しなければならなかった。内科医の疲弊もひどく、このままでは救急医療が立ち行かなくなると思った」という。

 そこで町と協議し、肺炎が重症化しやすく、長期入院が急激に増える75歳以上を対象に、肺炎球菌ワクチンの接種に2千円の助成を始めた。町民の自己負担は4千円。現在、70代後半の接種率は54%に上る。

 町の規模が小さいだけに数字にするのは難しいが、ターゲット層の75〜79歳では肺炎入院患者がほぼ3分の1になった。目に見える効果も大きい。冬季に満床だったベッドに空きが出るようになり、重症患者を断らないで済むようになった。

 医療費抑制効果もあった。清水科長は、肺炎患者の入院減で医療費は昨年度、約2600万円減ったと推計する。これに対して、町がワクチン助成にかけた費用は累計で約160万円。清水科長は「浮いた分を、80歳以上のさらに重症化しやすい患者の治療に回すことができる」と喜ぶ。

 北海道せたな町で平成13年に肺炎球菌ワクチンの公費助成に踏み切った医師、村上智彦さんは「公費助成前、町の老人医療費は全国トップだったが、肺炎球菌ワクチン接種で818位まで下がった。ワクチンは住民に予防医療の重要性を認識してもらう道具。健康への意識が高まれば医療費は減る」と話す。

 ◆米国では備蓄も

 現在、公費助成を行う自治体は図の通りで、高齢者の接種率は4%程度。ワクチン接種は自費なら7千〜8千円程度かかるが、新型インフルエンザの流行前に接種率を上げるべきだとの声は強い。米国では高齢者の65%以上が接種済みで、2千万人分の肺炎球菌ワクチン備蓄も決めた。

 日本感染症学会も今年5月、緊急提言で「(新型インフルエンザの)重症例にはウイルス性肺炎より細菌性肺炎例や呼吸不全例が多く見られる」とし、(1)65歳以上の高齢者(2)慢性の呼吸器疾患並びに慢性心疾患(3)糖尿病の患者−に肺炎球菌ワクチン接種を考慮するよう呼び掛けた。

 インフルエンザに詳しいけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫小児科部長は「これから秋にかけて、新型インフルエンザが流行するのは間違いない」と指摘。そのうえで、「インフルエンザで死亡する高齢者の多くは、細菌性肺炎を併発して死亡している。新型インフルエンザでも細菌性肺炎による死亡が多いことが分かってきた。それなのに、日本のように肺炎球菌ワクチンの接種率が4〜5%しかない状態で新型インフルエンザを迎えるのは問題だ」と話している。

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【用語解説】肺炎球菌ワクチン

 肺炎は、がん、心臓病、脳血管疾患に次ぎ、死因の4位で、高齢者ほど死亡率が高い。その原因となる病原体で特に頻度が高く、重症化しやすいのが肺炎球菌。肺炎球菌ワクチンを接種すると、効果は5年以上持続し、インフルエンザワクチンとの併用で肺炎の死亡リスクは8割減るとされる。再接種時に注射部位の腫れや痛みなどの副反応が強かったことから、日本では1度しか接種できない。

(2009/08/06)