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重度者の自宅介護 労力とお金を考える(上)

訪問看護士に体を動かしてもらう田中良則さん



 ■家族なくては難しい在宅 常に生活支える人が必要

 家族が寝たきりや重い認知症でも、自宅で世話をしたい人は多いでしょう。しかし、介護度が重い人の在宅介護の実態はあまり知られていません。どのくらいの「労力」と「お金」があれば、在宅介護ができるのでしょうか。いざというときのために実態を知っておきたいものです。(清水麻子)

 7月下旬の昼下がり。脊髄(せきずい)まひで手足を動かすことが困難なため、自宅で寝たきりで過ごす要介護5の田中良則さん(75)=東京都品川区=が、訪問看護師に手足のリハビリを行ってもらっていた。

 良則さんの歩行が困難になりはじめたのは、まだ会社員だった45歳のとき。しばらくつえを使って会社勤めを続けたが、50歳で退職。4年前に寝たきりになり、尿道カテーテルも装着した。

 1日中ベッドに寝たきりだが、意識ははっきりしており、食事も妻と同じメニューを介助で食べる。

 「20年以上住み慣れた自宅で妻と一緒に過ごせる私は幸せです」と、良則さんは今の生活に満足そうだ。

  ■

 良則さんの介護生活をメーンで支えているのは、妻の弘子さん(71)。

 毎日、良則さんのために、魚や野菜を中心とした健康食を作り、汗で汚れた寝間着やシーツを洗ったり、カテーテルで吸いきれなかった尿が漏れるため朝晩2回、オムツ替えをする。

 弘子さん自身も甲状腺に問題があり、脳梗塞(こうそく)があるなどで、体調は万全とはいえない。だから介護保険のサービスを使って自分の体調が崩れないよう、上手にやりくりしているという。

 月水金の午前中は2時間ずつヘルパーさんに来てもらい、良則さんの口腔(こうくう)清掃やオムツ交換、家の中の掃除などをしてもらう。体を清潔に保たないと感染症などにかかりやすくなるため、火土の午前中は「訪問入浴サービス」を頼む。

 さらに、体調チェックやリハビリ、ぼうこう洗浄のため、月木の2回、約1時間ずつ訪問看護師に来てもらう。緊急の場合は、夜中でも看護師が駆けつけてくれるよう、万全の体制をとってある。

 月に1回は、弘子さん自身が休息するため、良則さんに1週間程度、特別養護老人ホームに入所してもらう「ショートステイ」を利用する。

 これだけサービスを使うと、要介護5の人のための介護保険の支給限度額(月に約36万円、自己負担約3万6000円)を超える。月の自己負担額は4万4000円程度という。

 良則さんは半日程度なら1人で留守番もできるので、弘子さんはその間にスーパーへ食材を買いに行く。「これ以上、サービスを使わなくても大丈夫」と弘子さんは言う。

 ■

 しかし、良則さんの場合、弘子さんというメーンの介護者が随時、体調を見守っているから、介護保険の支給限度額をややオーバーする程度で自宅での暮らしが実現できている。

 1人暮らしだったり、日中、家族が働いているなどでメーンの介護者がいなければ、介護保険のサービスだけではとても収まりそうにない。

 品川区地域包括支援センターのケアマネジャー、三矢学さんは「重度の1人暮らしでも、本人に『自宅で暮らしたい』という思いが強く、介助があれば何とか食事や排泄(はいせつ)ができる場合は、介護保険のサービスだけで自宅で暮らすことが可能なケースもあります。でも、それは本当に一部の人です」と指摘する。

 重度の場合、メーンの介護者がいなければ、自費のサービスを大量に追加して自宅で暮らすか、自宅暮らしをあきらめて施設に入るしかないというわけだ。

 厚生労働省も「高齢者の介護度が重くなったとき、家族がいないと、自宅は難しい。やはり施設が受け皿にならざるを得ない」と、メーンとなる介護者がいることが在宅介護の前提であるとする。そのうえで、「地域によって特養などの施設が足りないなら、作ることは市区町村の判断だ」という。しかし、都市部を中心に施設は不足しているのが現状だ。

 家族がいないと成り立たない介護。次回は、それが家族にどう影響するのかを取り上げます。

(2006/08/07)

 
 
 
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