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重度者の自宅介護 労力とお金を考える(下)

 ■症状安定なら負担少なく 同じ介護度でも状態さまざま

 状態が安定しない認知症などの重度者の場合、家族のストレスが強く、在宅介護が続かない現状をお伝えしました。一方で、状態が安定し、介護者がストレスに強いなどの条件が重なれば、サービスは介護保険の限度額内で済み、介護の費用が少なくて済むケースもあるようです。(清水麻子)

 「在宅でつききりで父を介護していますが、そんなに大変じゃないですよ」と話すのは、加藤美千代さん(66)=仮名=だ。

 美千代さんは長年、米国で暮らしていたが、昨年11月、認知症の父(93)が老人保健施設で誤えん性肺炎を起こして危篤状態になったため、急ぎ、帰国した。

 父は病院に3カ月間入院し、美千代さんも病院に寝泊まりしながら介護を続けたが、持ち直したため、東京都品川区の自宅に帰ることになった。実母は10年以上前に病死し、実弟(64)も脳梗塞(こうそく)で倒れ入院中。介護する人がほかにいないため、美千代さんは米国での仕事を辞め、そのまま父の実家で介護にあたっている。

 父親は終日、自宅のベッドで寝たきりで過ごす。入院中、胃に管を通して栄養を入れる「胃ろう」を着けたため、美千代さんの主な介護は、日に3回、胃ろうに栄養剤を流し込むこと、2時間おきのオムツ交換、じょくそう防止のための体位交換などだ。深夜12時と明け方4時のオムツ交換も欠かせないので、美千代さんは父が寝ている昼間に眠ることもある。

 2時間おきの介護は大変だが、美千代さんは20代半ばまで韓国で育ったこともあり、「韓国では親を大切にするのは当たり前。米国では仕事をしていましたが、親がこういう状態なのに、仕事だけしているのは悔いが残ります。親を介護できる私は幸せ」と前向きだ。

 だから、介護保険のサービスもあまり使っておらず、週に1度の訪問看護と、やはり週に1度の訪問介護で体をふいてもらうだけ。

 その分、介護にかかる費用も少ない。介護保険の自己負担の6000円と、オムツ代や医療費などをあわせて3万円くらいで済む。

                    ■

 厚生労働省によると、要介護度5の人は平均、支給限度額の5割程度のサービスを利用している。支給限度額いっぱいまで使われていないのは、国民年金くらいしか収入がなく、1割負担でも支払いがきつい人もいるからだという。

 しかし、米国でスーパーを経営していた美千代さんが、サービスを限度額いっぱい使わないのは、費用が問題ではなさそうだ。では、どうして支給限度額の2割程度で済むのだろう。

 品川区地域包括支援センターのケアマネジャー、三矢学さんは重度者の在宅介護でも、サービス量が少ないケースについて、(1)要介護者の状態が落ち着いている(2)介護のリズムがある(3)介護者がストレスに強い−などの条件を挙げる。こうした条件が重なれば、サービスを目いっぱい使わなくても、淡々と在宅で暮らせるケースもあるという。

 加えて、美千代さんの場合、父親が胃ろうにしたため栄養剤投与のコツを得るまでは大変だったが、逆に介護食を作らずに済んでいる面もある。こうした事情も、サービスを増やさずに済んだ一因だったようだ。

 品川区で高齢者の在宅介護を担当する中山文子係長は「状態が安定し、介護の時間が規則的でリズムがあると、家族のストレスも少なく、『介護をしたい』と主張するケースも結構ある」とする。

 条件さえ整えば、できれば自分の手で、自宅で介護したいと思うのは、介護する側にとっても自然な要求といえそうだ。

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 一方で、同じ要介護度5でも、昨日の連載で紹介した吉川恵子さん(仮名)のように、介護疲れから自殺未遂を起こすようなケースもある。

 三矢さんは、在宅介護でサービス需要が高いのは、(1)医療ニーズが高く、発熱しやすい(2)入退院を繰りかえす(3)動きが活発な認知症の人−など、状態が不安定な人としたうえで、「不安定な状態の人を支える家族のストレスは相当で、支給限度額を上げた方がいいと思うケースもある。同じ要介護度5でも、実際にはさまざまな人がいます」と、指摘している。

(2006/08/09)

 
 
 
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